休診日:木曜・土曜午後、日曜、祝祭日
※水曜午前・午後は森先生、それ以外は院長の診察です。
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Internal
便に血が着いていたりすると非常に心配になると思います。単なる切れ痔でも起こりますが、大きな病気が隠れていることもありますので、きちんと検査を受けるようにしましょう。
排便時の出血はよくある症状でもあります。人が食物を取る口から排せつする肛門までの器官を消化管と呼び、排便時の出血は、この消化管のどこかで起きています。出血部位が、胃や十二指腸だと上部消化管出血、大腸や肛門部だと下部消化管出血と呼ばれ、便の性状に違いがみられます。
上部消化管出血は「下血」といい、コールタールのような黒い便(タール便といいます)が特徴です。しかし少量の出血では明らかな真っ黒にならないこともあります。少量の出血がじわじわと長時間続きいつの間にか貧血が進行しているということもあります。下部消化管出血は「血便」といい、赤暗い血液や真っ赤な鮮血が混じります。
便潜血検査は以前は血の滴るステーキなどを食べると陽性になることもありましたが、現在の方法は人の血液にしか反応しませんので食事制限などが要らない検査となっています。
便潜血検査には、「1回法」と「2回法」があり、検査時に毎回出血するとは限らないため、複数回受けた方が精度は高くなります。便潜血検査を受けるなら2回法がおすすめです。また上部消化管出血で出血量が少ない場合、出血した血液が変性しており、陽性とならないこともあります。
便潜血の感度は90%前後と言われており、大腸がんなどの重篤な疾患が見逃される可能性は否定できませんので、より高い確率で大腸がんを早期発見したいということでしたら、大腸カメラ検査を受けられることをおすすめします。実際に検査をしてみると大腸癌が見つかることもありますが、大腸ポリープが最も多く見つかる病変です。大腸ポリープはがん化することがありますので、基本的には種類によっては切除することが望まれます。
急性で下痢を伴う血便の原因としては、虚血性腸炎や感染性腸炎、抗生物質起因性腸炎などが考えられます。慢性的な場合は、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎もしくはクローン病)、アメーバ赤痢、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍などがあります。大量の血便を排出するようだと、憩室出血や血管性疾患、急性出血性直腸潰瘍、炎症性腸疾患などの可能性があります。
緊急の大腸内視鏡検査が実施された症例は、頻度が高い順に大腸がん・ポリープ、炎症性腸疾患、虚血性腸炎、大腸憩室出血、感染性腸炎、急性出血性直腸潰瘍となっています。年齢によっても血便の原因となる疾患に特徴があり、若年層は炎症性腸疾患、中高年層は大腸がん・ポリープが最も多くみられます。虚血性腸炎は動脈硬化で大腸の虚血によって起こりますが、腹痛を伴うことが多いです。
いびきと歯ぎしりは睡眠中に人に迷惑をかけるということで有名ですが、単なる“うるさい”ということではすまないことがあります。特に新幹線の運転手による居眠り運転から有名になって注目されているのが睡眠時無呼吸症候群SAS(Sleep Apnea Syndrome)です。
いびきをかいていると一見熟睡しているように見えますが、気道がふさがり空気の通りが悪いので、呼吸が抑制され、眠りが浅く、睡眠不足となります。毎晩いびきをかいていたり、呼吸が止まっているというような状況では後に述べるような問題が起こってくる可能性があります。思い当たるふしのある方はご相談下さい。
いびきとは睡眠時に発生する、粘膜の振動音です。原因としては肥満、アルコール、薬物、アデノイド、咽頭部疾患、鼻疾患などがあります。肥満ではアゴの周り、首周り、のどや舌が太くなり結果として気道が圧迫され空気の通りが悪くなりいびきが発生します。アルコールを多飲すると気道内がうっ血して膨張し、舌や咽頭の筋肉の緊張がなくなり気道が狭小化していびきが発生します。その他、筋肉弛緩剤、睡眠薬などで筋肉の緊張が緩和して咽頭の筋肉緊張低下から気道が狭小化します。またアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎(蓄膿)などは鼻の通りが悪くなり気道抵抗が増加して、いびきの原因となります。その他、のどの炎症、肥大などでも起こります。
睡眠時無呼吸症候群の定義としては一晩の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上おこる、または睡眠1時間あたりの無呼吸や低呼吸が5回以上おこるとされています。
SASは日本においては珍しいものではなく人口の1~2%すなわち130万人から260万人にあるとされています。SASには前述の気道の狭窄がおこって呼吸抵抗が増加して呼吸停止に至る閉塞型と睡眠に伴う呼吸中枢の活動低下により呼吸停止を起こす中枢型とこれらの混合型に分けられますが、閉塞型が最も多いとされています。呼吸停止がおこると、血液の酸素濃度が低下し、あるレベルに達すると耐えられなくなって無意識の“覚醒”がおこって呼吸が再開します。脳波をとってみると一晩に100回も呼吸が停止することもあります。人によっては何回も呼吸停止を起こしその都度に覚醒するため、つまり熟睡できずに朝方の頭痛、夜間覚醒、夜間多尿、インポテンツ、昼間の眠気、集中力の低下、労働能力の低下を来したり、交通事故や労働災害の原因となります。さらには頻回の低酸素血症、胸腔内圧の増加が、虚血性心疾患、脳梗塞、脳出血、高血圧の原因となり突然死の原因となります。また、日中の強い眠気を何とか解消しようと、絶えず食べ続けたり、カフェイン摂取や喫煙を続けることがあります。
前回述べたように睡眠時無呼吸症候群(SAS)は睡眠中に呼吸が10秒以上とまることが繰り返しておき、一晩7時間の睡眠で30回以上、あるいは1時間あたり5回以上無呼吸がおこるものをいいます。このため診断には夜間の測定が必要となります。一泊入院して行う方法もありますが、なれない枕とベッドで監視されながら寝るというのはなかなか大変ですので、当院では自宅で測定してもらう方法をとっています。夜間睡眠中の呼吸、いびき音、酸素レベルが測定できる携帯式のアプノモニターがあり、これをセットして睡眠中に記録をとって後で解析する方法があります。さらに、詳しい検査法として、筋電図、眼電図なども測定する睡眠ポリグラフ法があります。
SASの重症度は睡眠時1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数(無呼吸低呼吸指数apena hypopnea index)で示され、AHI<5 なら正常範囲、5≦AHI<30は軽症または中等症、30≦AHI<60は重症SASと診断されます。
なお、AHI20以上の者のうち70%がBMI(body mass index)25以上の肥満者で、うち28%はBMI30以上という報告があります。
はい | いいえ | |
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・昼間いつも眠い | □ | □ |
・いくら寝ても眠い | □ | □ |
・居眠りをよくする | □ | □ |
・朝の目覚めがすっきりしない | □ | □ |
・朝起きると頭が痛い | □ | □ |
・記憶力・集中力が落ちてきた | □ | □ |
・夜間、何回もトイレに行く | □ | □ |
・夜間、何度か目を覚ます | □ | □ |
・いびきがうるさいと言われる | □ | □ |
・精神的に不安定になる | □ | □ |
上記の質問に3つ以上当てはまる場合、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあります。
多くのSASのひとは日中の眠気を何とか解消しようと絶えず食べ続けたり、カフェイン摂取や喫煙を続けます。大量の缶コーヒーを飲んでいることもあります。こうした人は日中体がだるく、運動がおっくうで減量が進みません。缶コーヒーをはじめとした異常摂食が肥満を助長させてさらに夜間の呼吸障害を悪化させるという悪循環を生じます。
SASでは肥満に伴う耐糖能異常や脂質代謝異常を合併しやすく、また夜間睡眠中に血圧変動と血圧上昇をきたし、夜間非降下型(non-dipper)高血圧との関連も指摘されています。また重症SASでは肥満が80.1%、高血圧が50.2%、耐糖能異常が64.7%、高トリグセライド血症が60.2%と指摘されています。また狭心症、心筋梗塞の冠状動脈疾患を合併している頻度は軽症12.5%、中等症12.2%、重症で16.6%がすでに合併していたという報告があります。特に女性の重症群では37%と高率であることが報告されています。また重症では5年生存が84%(16%が5年以内に死ぬということ)、8年で60%(40%が8年以内に死ぬということ)という報告もあります。心不全、肺高血圧との関係も指摘されています。
したがって、SASというのは単にいびきがうるさいということだけではなくて生命を危険にさらす可能性があるということです。早急に治療を開始する必要性があります。具体的治療法は次回に述べますが、早めに治療を受けると色々な疾患を予防することができます。また高血圧の方では血圧の低下(平均10mmHg前後の低下)なども期待することができます。
1)内科的治療
軽症の人で肥満のある人はとにかく減量することが肝要です。無呼吸の程度が強い人は2)の治療法を行います。
2)経鼻的持続陽圧呼吸療法
CPAP療法(Continuous Positive Airway Pressure)といわれるもので、鼻にマスクをつけ閉塞型無呼吸の起こる上気道へ鼻から空気を送って気道をひろげる方法です。この装置の効果は絶大でほとんどのいびきや無呼吸が消失します。また装置も上の写真のように簡単なもので装着も簡単です。手術による治療に比較して侵襲性が少なく、安全で確実な効果がみられます。当院でも行っている治療ですが、皆さん経過は良好です。
3)口腔内装具
軽症の人やCPAPが使用できない人に使われます。マウスピースで下あごを一定の距離だけ前に移動させて、舌の後ろのスペースを広げるものです。小さなものですので、旅行などに持ち運びができる利点があります。しかし現在この治療法は保険適応になっていません。
4)耳鼻科的手術
右の図のようにのどの奥を広げ、肥大した扁桃腺を摘出する手術(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)が手術方法としてありますが、その効果については一定の評価が得られていません。最近では手術療法は積極的には行われていません。
甲状腺はのど仏の下に蝶が羽を広げたような形であります。のどには甲状軟骨という大きな軟骨がありますが、その上縁で飛び出したところがいわゆるのど仏です。甲状腺は甲状軟骨の側面から下にあります。甲状腺は2cmほどのもので15gくらいで軟らかいため触ってもふつうはわかりません。甲状腺腫などではこれが触ってもわかるようになってきます。甲状腺では甲状腺ホルモンが作られます。甲状腺ホルモンの主な作用は新陳代謝を活発にすること、すなわち食物に含まれる各種の栄養素を体内で利用できるようにします。このホルモンが低下すると新陳代謝が低下するために脈が遅くなったり、便秘をしたり、食べなくても太る、寒がり、髪の毛が抜ける、生理が多い、子供では身長が伸びにくくなります。過剰になると食べて燃やせる、脈が速い、汗をかく、手や指が震える、疲れやすい、暑がりで暑さに弱い、イライラする、下痢・軟便傾向、不整脈などの症状が出てきます。
甲状腺機能亢進症ではほとんどの場合に甲状腺は腫れてきます。ただし腫れの程度と病気の重症度はほとんど関係ありません。若い人では動悸、甲状腺の腫れ、眼球突出といった3つの症状が出てくることがしばしばですが、高齢者ではこうしたものが出にくくなります。
甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモンが上昇します。これにはT3とT4がありますが、この中でもタンパクと結合していない遊離型のfreeT3(FT3)、freeT4(FT4)が上昇しています。TSHはthroid stimulating hormoneの略で甲状腺刺激ホルモンです。これは脳の脳下垂体というところから出るホルモンで甲状腺ホルモンが不足すると増加し、過剰であると低下してきます。
甲状腺ホルモンの骨格にあるサイロニンというものにヨードが3つついたものがT3、4つついたものがT4です。甲状腺ホルモンは甲状腺から血液中に分泌されるとほとんどが血液中のタンパク質と結合して存在しています。ところが実際に働く甲状腺ホルモンはタンパク質に結合していない遊離型(free)のものだけです。したがってFT3、FT4を測定すればよいのです。
よくあることですが、FT3とFT4は正常なのにTSHだけが低下したり、上昇したりしていることがあります。その理由は検査結果のFT3とFT4の正常範囲は健康な人であればほとんどの人がその範囲内にあるという意味であって1人1人の個人差まではわからないからです。
つまり健康な人の甲状腺ホルモン濃度というのはもっと狭い範囲に保たれていてその範囲が1人ずつ違うのです。検査値の正常範囲に入っていてもその人にとっては正常でないことがあるわけです。しかし、そんなときでも脳下垂体はその個人にとって甲状腺ホルモンが正常なのかどうかを判断できるので、もし甲状腺ホルモン濃度がその人にとって異常であればTSH濃度に変化が出てきます。血液中の甲状腺ホルモンが不足なのか過剰なのかを調べるときにはFT3とFT4をみるよりもTSHでみた方が感度は高いということになります。
甲状腺機能亢進症ではFT3とFT4が増加しTSHが減少していますが、甲状腺ホルモンが高くなる代表的な病気は次の4つがあります。
①バセドウ病(Basedow病)(グレーブス病;Graves病ともいわれます)
TSH受容体に対する抗体が甲状腺を刺激してホルモン値が高くなります。
②無痛性甲状腺炎
橋本病を基礎として起こる痛みのない炎症
③亜急性甲状腺炎
ウィルス感染で起こると考えられている痛みのある炎症
④機能性甲状腺腫
甲状腺の腫瘍が自立的にホルモンを産生します
このうちバセドウ病が最も多い疾患で90%を占め、あと5~7%が無痛性甲状腺炎です。したがって甲状腺機能亢進症はバセドウ病と考えてほとんど問題ありません。
バセドウ病では甲状腺を刺激する自己抗体(TRAb; TSHレセプター抗体)が作られ甲状腺が腫大し機能亢進症になります。男女比では4~7倍女性に多く、小児から高齢者まであらゆる年齢層にみられます。出産で増悪することもあり遺伝性も指摘されています。バセドウ病では甲状腺腫大、眼球突出などがみられることがあります。まぶたの筋肉が緊張してまぶたがつり上がって眼瞼後退がおこり眼の後ろの脂肪組織の増加や筋肉の増大で眼球突出が起こります。眼球突出がみられるのは甲状腺機能亢進症のなかでバセドウ病だけです。若い人では動悸、甲状腺の腫れ、眼球突出があることが多く診断は難しくありませんが高齢者では体重減少のみが目立ち、動悸や眼球突出が目立ちにくく診断が困難なことがあります。
バセドウ病の治療としては薬物療法、手術療法、放射線ヨード療法がありますが、一般には薬物療法が選択されます。甲状腺ホルモン合成を抑えるメルカゾールやプロパジール(またはチウラジール)を用います。妊娠、授乳時を除いてメルカゾールを使うことが多く、最初は多めに薬を用い(メルカゾールなら3~6錠、プロパジールなら6錠から開始)、3~6ヶ月で血中甲状腺ホルモンは正常域まで低下し、正常化した後に徐々に薬の量を減らし、甲状腺ホルモンが正常範囲内に維持できるようにします。TSHは送れて正常化しますので薬物量の指標にはなりません。甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの分泌量(活性)が不十分となる疾患です。先天性のものや幼少時発症のものは、発達上の障害が大きな問題となるため特にクレチン症といいます。甲状腺ホルモンは全身のエネルギー利用を促すホルモンで、エネルギー需要に応じて甲状腺から分泌されますが、本症ではこれが不足するので全身でエネルギーを利用できず、神経系、心臓、代謝など各器官の働きが低下します。甲状腺ホルモンの不足する状況としては、分泌調節の段階から次のように分類できます。
①原発性
甲状腺自体の問題のため分泌ができない場合
②二次性
甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低下しているために甲状腺ホルモンを分泌できない場合
③三次性
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が低下しているためにTSH、甲状腺ホルモンとも分泌できない場合
④さらに、ホルモン分泌量は十分でありながら、受容体の異常によって利用できていない状態
甲状腺機能低下症は永続性である場合と一時的である場合があります。治療を行う場合はそのどちらであるかをよく見極めることが大切になります。
無痛性甲状腺炎後の甲状腺機能低下症の多くは一時的なものです。甲状腺自体に異常があるという場合は原発性甲状腺機能低下症と呼ばれます。甲状腺機能低下症のなかで、もっとも多くみられるのは、原発性甲状腺機能低下症です。橋本策博士によって発見されたので橋本病という名前がつきました。二次性、三次性のものは脳腫瘍が原因となることが多いです。自己免疫障害によって甲状腺が攻撃される橋本病では、甲状腺が慢性炎症を起こして機能が低下します。これは原発性に分類されます。発展途上国では甲状腺ホルモンの材料であるヨウ素の摂取不足により甲状腺ホルモン自体を合成できないことが原因となることがあります。このほか、手術により甲状腺を摘出したり、放射線療法により甲状腺機能を廃絶させた場合に医源性の甲状腺機能低下症となります。原発性甲状腺機能低下症の橋本病の場合は、自分の免疫系が自分の甲状腺に反応してしまい、その結果、甲状腺に炎症が起きている状態です。
橋本病の場合、甲状腺に炎症があるだけでは、特に問題はありません。橋本病は、中年女性の10人に1人はいると言われるほど多くの人が患うものですが、ほとんどの橋本病の患者さんは、橋本病と診断されても、ただ甲状腺が腫れているだけで、甲状腺機能は正常です。ただし、炎症が進むと甲状腺の働きが低下してきます。さらに、経過中に甲状腺ホルモンが高くなることもあり、バセドウ病と間違えられることもしばしばあります。発症の原因としてよく見られるのは、出産や大きなストレスのほか、ヨードの過剰摂取があります。甲状腺機能が正常であれば、とくに治療も必要なく問題はありません。橋本病の人のうち、2割程度の方に甲状腺機能低下症がみられ、「皮膚がかさかさする」「顔や手がむくむ」「寒がり」「便秘」「あまり食べないのに太る」「髪の毛が抜ける」「生理の量が多い」「物忘れしやすい」などの症状が表れます。中年以降の女性にはよくある症状ですので、これらの症状があっても甲状腺機能低下症とは限りませんが、逆によくある症状なので、ただの更年期障害や老化現象と勘違いされがちなのです
症状は全身がエネルギーを利用できなくなるため、症状は多岐にわたります。主な症状は、強い全身倦怠感、無力感、皮膚の乾燥、発汗減少、便秘、上下肢、脇、眉の外側の脱毛、声がかすれる、聴力の低下、目に光がなくなり、顔もぼってとする、鍵の開け閉めなどできにくくなる、体重増加などです。全身の活動が低下し無力感を持ったり低体温になります。皮膚の活動の低下により発汗が減少、それに加え低体温であるため皮膚が乾燥します。代謝が低下することにより皮下に粘液状の物質が沈着しむくみます。このむくみは粘液状物質でできているので粘液水腫といいます。この場合見られるむくみは、指で押しても全く圧痕を残しません。腸管も活動が低下して便秘になり、活力の低下により精神活動も緩慢となり、偽痴呆を呈することがあります。心臓も活動が低下して徐脈になります。心臓への粘液状物質の沈着も見られ、不整脈の原因となります。本症で最も問題となる症状は早老による動脈硬化などです。また子供のクレチン症の場合は生育に必要な甲状腺ホルモンが欠如するので、発育障害や知的障害にいたる場合があります。
慢性甲状腺炎以外に甲状腺機能低下症を来すものとして次のようなものがあります。
一時的に起こる甲状腺中毒症です。症状は甲状腺機能亢進症のバセドウ病と似ていますが、バセドウ病と違うところは1〜2ヶ月という短期間で自然に治ってしまうことです。自然に治る途中で一時的に機能低下症を示しますが、結局は正常に回復することが一般的です。
慢性甲状腺炎の人では出産直後の半年間は甲状腺機能がとても不安定です。この時期にいろいろな種類の甲状腺機能異常がみられますが大部分は一時的なものです。慢性甲状腺炎と診断されている場合は出産後2〜3月目に甲状腺の検査を受けて下さい。
ヨードは甲状腺ホルモンの原料ですが過剰に摂りすぎると甲状腺の働きを妨げることがあります。昆布、根昆布、わかめなどはヨードを多く含みますので、これらを習慣的に摂取すれば甲状腺機能が低下して甲状腺が腫れることがあります。また、すでに腫れている場合には腫れが大きくなります。このような場合はヨードの過剰摂取を止めれば速やかに回復します。
慢性の甲状腺の炎症が急に強くなったために甲状腺の痛みや発熱をきたすことが稀にあります。ステロイド系の消炎鎮痛剤で治療します。炎症が強くおこった後は急速に甲状腺機能低下症になってしまいます。また薬の治療で症状が抑えきれない場合は手術によって治療します。
慢性甲状腺炎に悪性リンパ腫というリンパ球の腫瘍が続発することがごくまれにあります。ただし悪性リンパ腫は稀な腫瘍で甲状腺の悪性腫瘍のわずか2%程度しかありません。超音波検査で偶然発見されることもあります。甲状腺の腫れが急速に大きくなって気づくこともありますので、このような時はすぐ病院を受診して下さい。
海藻の中には「ヨード」という成分が多く含まれています。「ヨード」は甲状腺ホルモンの原料です。適度にとっていれば体にいいものですが、過剰に摂りすぎると甲状腺の働きを妨げることがあります。「昆布」や「わかめ」などの海藻類がヨードを多く含みますので、これらを習慣的に摂取すれば甲状腺機能が低下して甲状腺が腫れることがあります。そして、すでに腫れている場合にはヨードの取りすぎにより腫れが大きくなります。このような場合はヨードの過剰摂取を止めれば回復します。
甲状腺機能低下症で調べる検査は血液検査とせいぜいエコー検査ぐらいです。エコー検査では甲状腺の全体像を調べますが、検査時には痛みや圧迫感もなく、身体に無害です。診察台に横になる、もしくは座ったままでも検査でき、喉にジェルを塗るだけですので検査時間は5分程度とすぐに終わります。甲状腺エコーではバセドウ病、甲状腺機能低下症、橋本病、甲状腺炎、甲状腺腫、甲状腺がんなどを疑うことができます。
血液検査で調べるTSHというのは甲状腺刺激ホルモンといって甲状腺を刺激してホルモンを「出して!」「減らして!」とホルモン分泌量を調整しする、下垂体前葉と呼ばれる脳の重要な部分から分泌される命令ホルモンの一つです。そしてTSHの指令によってFT3とFT4の甲状腺ホルモンが体に必要な分量だけ分泌されるのです。
TSHの基準値は0.50~5.00μIU/ml、FT3の基準値は2.30~4.30 pg/ml、FT4の基準値は0.90~1.70 ng/mlです。TSHもFT3もFT4上記の基準値がありますが、TSHの数値が高くなればなるほど甲状腺を刺激している証拠です。甲状腺機能低下症ではこのTSHがいくら高値になって甲状腺を刺激しても刺激しても甲状腺ホルモンであるFT3とFT4の数値が基準値を下回っています。甲状腺刺激ホルモンであるTSHが基準以上でFT3とFT4の数値が基準以下だと頑張っても甲状腺ホルモンが分泌できない状態を示し甲状腺機能低下症と診断されます。
甲状腺機能低下があれば甲状腺ホルモン剤のチラーヂンSの服用が必要となります。甲状腺機能低下は治る場合もあり、一生内服が必要とは限りません。このホルモンの半減期は長いので、1日に何度も服用する必要がなく1日に1度服用すれば十分です。チラーヂンSを服用すると約1〜2か月で甲状腺ホルモン値が正常になり、今まで感じてた体の不調がな和らいできたという自覚症状が出てきます。内服を続ければ健康な方と全く変わらない生活をおくることができます。甲状腺ホルモン値が正常になっても何らかの症状がある時は、甲状腺以外の病気を考える必要が多いにあります。スクラルファート(アルサルミン)、アルミニウム含有製剤(マーロックスなど)、マグネシウム含有製剤(酸化マグネシウムなど)、コレスチラミン(クエストラン)、鉄剤(フェロミアなど)を飲んでいる方は、チラーヂンSの吸収をさまたげ、効果が弱まることがありますので、服用を8時間以上あける必要があります。妊娠した場合にも服用を勝手に中止してはいけません。
チラーヂンSは人体にとって異物ではありません。本来、人体に存在する必要不可欠な物質です。適量を服用するかぎり、副作用は全くなく、太ることもありません。「ホルモン剤」と聞くと「副作用が強い」と想像しがちです。このチラーヂンSは強い副作用がありうるステロイドホルモンではありません。甲状腺ホルモンそのものです。
このチラーヂンSの適量を10年飲んでも50年飲んでも副作用を起こすことはありません。「ご飯を食べる感覚」「朝起きてメガネをかけるような感覚」で日常の習慣として服用していけます。副作用のある薬剤として考える必要はありません。妊娠中も服用できます。
甲状腺ホルモンは胎児の脳の発育にも必要です。甲状腺機能低下症で投薬治療している状態で妊娠に至った場合は、妊娠中にも絶対に服用する必要があります。妊娠中の薬剤使用は非常に注意すべき事柄ですが、このチラーヂンSは母体と胎児にとって薬剤ではありません。母体と胎児にとって必要不可欠な栄養素です。薬を服用せずに甲状腺ホルモンが不足した状態だと胎児の発達問題へつながり、最悪の場合は流産してしまう可能性が非常に高いです。チラーヂンSはもともと体の中にあるものですから、ほとんど副作用はありません。ただ、飲む量が多すぎると、動悸がする、汗をかきやすい、手指がふるえるなどの症状が現れることがあります。このような症状があらわれたら、すぐに主治医に連絡してください。
チロナミンという薬もありますが、これはT3製剤です。効き目は早いですが体内からの消失も速く、効果は長く続きません。すぐに甲状腺ホルモン濃度を上げたいときに適しています。服用方法、副作用については、チラーヂンSと同様です。チロナミンも、もともと体の中にあるものですから、ほとんど副作用はありません。ただ、飲む量が多すぎると、チラージンSと同様に動悸がする、汗をかきやすい、手指がふるえるなどの症状が現れることがあります。
熱中症は、従来は熱失神(heat syncope)、熱痙攣(heat cramps)、熱疲労(heat exhaustion)、熱射病(heat stroke)のような用語が用いられていました。現在では病態は熱中症の程度の問題であることから重症度分類が用いられています。日本神経救急学会による熱中症の分類はⅠからⅢ度に分類されています。
I度;めまい、立ちくらみ、気分が悪い、手足のしびれ、筋肉の痛み、硬直など(筋肉の「こむら返り」のことで、その部分の痛みを伴います。発汗に伴う塩分(ナトリウム等)の欠乏により生じます。“熱けいれん”と呼ぶこともあります。全身のけいれんはこの段階ではみられません)。
意識は正常で体温、皮膚も正常で発汗があります。、現場での応急処置で対応できる軽症です。
II度;頭痛・吐き気・嘔吐・下痢・倦怠感・虚脱感・失神・気分の不快・判断力や集中力の低下、いくつかの症状が重なり合って起こります(体がぐったりする、力が入らないなどがあり、従来から“熱疲労”と言われていた状態です。放置あるいは誤った判断を行えば重症化し、Ⅲ度へ移行する危険性があります)。意識 は正常で体温は39℃までで、皮膚は 冷たく発汗があります。病院搬送が必要な中等症です。
III度;意識障害・けいれん・手足の運動障害・おかしな言動や行動・過呼吸・ショック症状などが、Ⅱ度の症状に重なり合って起こります(呼びかけや刺激への反応がおかしい、体にガクガクとひきつけがある、まっすぐ走れない・歩けないなど)。高体温で体に触ると熱いという感触があります。従来から“熱射病”や“重度の日射病”と言われていたものがこれに相当します。 III度熱中症の診断基準は暑熱への曝露がある、深部体温39℃以上または腋窩体温38℃以上、脳機能・肝腎機能・血液凝固のいずれかひとつでも異常徴候がある、の3つを満たすものです。血液凝固は体温の過度の上昇によって体タンパク質が壊れ内出血をした結果、内出血を止めるために血液が凝固するために起こります。入院して集中治療が必要な重症です。
熱中症になりやすいのは5歳以下の幼児、65歳以上の高齢者、肥満者、脱水傾向にある人(下痢等)、発熱のある人、睡眠不足、遺伝的素因(CPT-2と呼ばれるエネルギー代謝・産生に関係する酵素に特定のSNPをもつ)と、高体温でのエネルギー代謝が活発な場合などです。
熱中症になりやすい状況として、気温が高い(25度以上)、湿度が高い(60%以上)などの環境条件(気温や室温が20度くらいでも、湿度が80%以上ある場合は要注意)、体調がよくない、暑さに体がまだ慣れていないなどの個人の体調による影響、日本では、日差しが強く気温も高い7.8月に多く発生し、時間帯は午後2時から5時の間の発生が多いです。
戸外の炎天下、直射日光を長時間浴びてしまうような場所はもちろんのこと、室内や夜間でも多く発生しています。就寝中など室内で熱中症を発症し、救急搬送されたり、亡くなられたりする事例も報告されています。しかし、急に暑くなったりする5月の連休明け頃の熱中症も決して少なくありません。また特に、暑くなりはじめや、急に暑くなる日、熱帯夜でクーラーで体を冷やしてしまった日の翌日など、急激な温度変化がある時に熱中症を引き起こします。梅雨の時期など、比較的涼しいと感じる20度くらいの時でも、雨のため湿度が80%以上あるときは汗が出にくくなり、熱中症になる恐れもあります。
熱中症の予防は暑熱馴化を行います。出来るだけ薄着として、直射日光下では帽子を被ります。吸湿性や通気性の良い衣類を着用するようにします。湿度が低い場合でも、気温が35℃(乾球温度計)以上の場合は特別な場合をのぞいて運動を禁止します。31℃以上の場合は激しい運動は中止し、体力の弱いものや暑さになれていない者などは禁止です。湿度が高い場合は、27℃以上で運動を禁止、24℃以上では激しい運動を中止し、体力の弱いものや暑さになれていない者などには禁止します。27℃以上では室内外の冷却や、直接的な体内や体表面の冷却により体感温度を下げ、体内の水分・塩分が失われないような環境を作ることが一番重要な予防法となります。
体感温度を下げる方法として、日射を防ぐ、通風を確保する、扇風機の風を作業場所へ向ける、スポット冷房する、作業服の内部へ送風する(そのような機能を持った作業服を着用する)、蓄冷剤を利用する、水の気化熱を利用して体温を下げるなどの工夫を行います。手や顔を洗って水で湿らせたり、低温や水のシャワー(急に冷水を浴びる場合は心臓への負担等十分な注意が必要)を浴びます。屋外においてはミストなどを利用することで、発汗させずに体感温度を下げることが効果的です。冷たいものを摂取することで、体内からも冷やします。多量に摂取した場合、おなかを壊す場合もあるので摂取量には注意が必要です。
暑いときの運動として水泳を取り入れます。水中での運動をしている限り、熱中症の可能性はとても低いですが、水中以外で補強運動などが行われる場合は他の運動時並の注意が必要です。
体感温度を下げられない環境下において、発汗がやむをえない場合は、発汗の量に合わせた水分・塩分補給が必要です。発汗によって失った水分と塩分の補給をこまめに行います。スポーツドリンクなど塩分と糖分を飲みやすく配合した飲み物も良いです。また、発汗量が少ないにもかかわらず多量に水分補給をしすぎた場合、逆に水中毒を発症する可能性があります。また家庭内など比較的運動していない場合に多量に摂取すると、ペットボトル症候群の危険もあるため糖分の摂取には注意する必要もあります。水分補給は多すぎず少なすぎず、適度な量の水分補給を行うことが重要です。運動・就労前に内臓(胃など)の負担にならない程度に適度の水分を取ります。塩分の補給には味噌汁やスープなど塩気の感じられる飲料が体液と塩分(塩濃度)が近く最適です。ただし、水だけを飲みすぎると体内の塩分濃度が薄まるだけでなく尿としても水分等が排出されてしまい、脱水症状を引き起こすので適度な電解質の補給も必要です。
熱中症の応急措置は冷却と経口摂取による水分補給が基本となりますが、経口摂取が難しければ点滴を行います。具体的な処置例を以下に列記します。
①経口補水液またはスポーツドリンクなどを飲ませます。
ただし、冷たいものを大量に飲ませると胃痙攣がおきることがあるので注意が必要です。また、スポーツドリンクではナトリウム濃度が低いため、病的脱水時にこれを与えると低ナトリウム血症から水中毒を誘発する可能性がある。特に乳幼児等には注意が必要で、経口補水液の投与が望ましい。手近な物としては味噌汁などが極めて有効です。夏場の重労働などでは早め早めの飲用がトラブルを防ぐ重要なポイントになる。経口塩分の過剰摂取には短期的に生命の危険になる可能性はほとんどない(心不全等を除く)ため、量は多目でかまいません。
②霧吹きで全身に水を浴びせて、気化熱によって冷やす。
霧吹きがないときは、口に水を含んで吹きかけても良いです。そのときの水は冷たくなくてかまいません。一気に水をかけるとショックが大きいので、冷たい缶ジュースや氷枕などを腋の下、股などの動脈が集中する部分にあてて冷やすのが良いです。
③涼しい場所で休ませます。
木陰やクーラーの効いたところで衣服を緩めるのが良いです。近くにそのような場所がないときは、うちわなどで早急に体を冷やします。
④速やかに病院などに連れて行く。
躊躇せずに救急車を呼ぶ。移動させるのに人手が必要と思えば大声で助けを呼びます。汗をかいていないとしても、体温が高くなくても熱中症の可能性はあります。脱水していれば、汗をかくことができません。④体温調整が出来なくなっているためか、高温多湿の体育館内での運動中などに寒気を訴える場合があり、そういったときは熱中症の兆候を疑ってみた方が良いです。
⑤自覚症状で熱中症だと感じることはまずありません。
自分で大丈夫だと思っても「おかしい」と思った時にはもう遅い可能性があるので、上記を参考に十分注意する必要があります。いずれにせよ早めの対処が肝要です。
不眠症は、睡眠のための環境が整っているにもかかわらず、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などの不眠症状を来たし、それによって日中の各種活動に支障を来している状態と定義されます。しかし眠れないという人の中には,必要以上に長く臥床していて不眠と感じている場合があります。国民全体として1日平均7時間42分睡眠をとっており、高齢になると睡眠時間はさらに延長します。一方、生理的に必要とされる睡眠時間は高齢になると減少するといわれていることから、高齢者は必要以上に長時間臥床している可能性が高いのです。
不眠症の治療はまず、生活面の改善です。ベッドに入る目的を睡眠に限り,起床時間を常に一定することなどからなる刺激制限法、必要以上に臥床時間を延ばさない睡眠時間の制限に強い効果があるとされています。高齢者では次の不眠に対する非薬物療法が勧められます。
薬物療法としては睡眠導入剤、抗うつ剤、抗不安剤、漢方薬などが用いられます。超短時間型としてはトリアゾラム(ハルシオン)、ゾルビデム(マイスリー)、エズゾピクロン(ルネスタ)があり、短・中時間型としてブロチゾラム(レンドルミン)、フルニトラゼパム(ロヒプノール)、長時間型としてクアゼパム(ドラール)、フルラゼパム(ベノジール)があります。このうちマイスリーとルネスタは非ベンゾジアゼピン系薬です。抗うつ薬としてクアゼパム(テトラミド)、トラゾドン(レスリン)、メラトニン受容体作動薬としてラメルテオン(ロゼレム)、オレキシン受容体拮抗薬としてスポレキサント(ベルソムラ)があります。高齢者や、入眠障害、中途覚醒にはベルソムラが良い適応で、早朝覚醒には抗うつ薬やドラールなどが有効です。また意外に漢方薬が副作用もなく有効であることが多いです。
便秘とは、便中の水分が乏しく硬くなる、もしくは便の通り道である腸管が狭くなり排便が困難または排便がまれな状態をいいます。通常は1日1-2回の排便がありますが、2-3日に1回の排便でも排便状態が普通で本人が苦痛を感じない場合は便秘といいません。しかし毎日排便があっても便が硬くて量が少なく残便感がある場合や、排便に苦痛を感じる場合は便秘といえます。便秘を引き起こす腸管の機能的異常の要因には「不規則な食事・生活」「食物繊維・水分・脂質などの摂取不足」「低栄養」「ビタミン欠乏症」「全身衰弱」「緊張・恐怖・悲しみなどの精神的要因」「神経障害」「浣腸や下痢の乱用」「体質」「職業性(便意があっても排便できない職業の人)」「便意を抑制する習慣」などがあります。
便秘の原因は幅広く、原因が異なれば治療法も違います。原因別に4タイプの便秘に分けられます。
最も多いタイプの便秘です。生活習慣やストレス、加齢などの影響を受けて、大腸や直腸・肛門の働きが乱れる結果、起こります。よりわかりやすいように、さらに三つに分けて解説します。
①-1 弛緩性便秘…大腸は、その内容物(食べ物の残りかす=便)をぜん動運動によってコロコロ転がし、少しずつ水分を吸収しながら直腸へと運びます。大腸を動かす筋肉が緩んで、ぜん動運動が弱まると、なかなか便が運ばれないために便秘になります。高齢者が便秘しやすい原因の一つです。また、朝食をとらなかったり、運動不足などの乱れた生活習慣による便秘も、これに該当します。
①-2 痙攣性便秘…大腸のぜん動運動に連続性がなくなり、便の通過に時間がかかり過ぎて起こる便秘です。ストレスの影響が強いと考えられています。
①-3 直腸性便秘…運ばれてきた便が大腸から直腸に入ると、直腸のセンサーが働き便意を催します。そこでトイレに行くと、ふだんは肛門を閉めている肛門括約筋が緩み、排便に至ります。ところが、便意を習慣的にがまんしていると神経の感度が鈍って、直腸に便が入っても便意を催さなくなります。女性が便秘しがちな理由の一つです。また最近、温水洗浄便座の水を肛門の奥まで入れるために神経の感度が鈍り、便秘になる人が増えています。
大腸がんや手術後の癒着、炎症性疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などのために、大腸の中を便がスムーズに通過できずに起こる便秘です。女性で、直腸の一部が腟に入り込んでしまう直腸瘤も、よくある原因です。このタイプの便秘では、まず元の病気を治すことが基本です。
甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症では大腸のぜん動運動が弱くなり、便秘がちになります。いずれも女性に多い病気です。女性の場合、病気とは別ですが、生理や妊娠中にホルモンの影響で便秘になりやすくなります。このほか、神経損傷や糖尿病の合併症などで、神経の働きが不調になった場合も、このタイプの便秘が起こります。
抗うつ薬、抗コリン薬(ぜん息や頻尿、パーキンソン病などの薬)、せき止めなどは大腸のぜん動運動を抑えるので、副作用で便秘になることがあります。
慢性便秘症を来たす基礎疾患として内分泌・代謝疾患の糖尿病(自律神経障害を伴うもの)、甲状腺機能低下症,慢性腎不全(尿毒症)、神経疾患の脳血管疾患、多発性硬化症、Parkinson病、Hirschsprung病、脊髄損傷(あるいは脊髄病変)、二分脊椎,精神発達遅滞、膠原病の全身性硬化症(強皮症)、皮膚筋炎、変性疾患のアミロイドーシス、精神疾患のうつ病や心気症、大腸の器質的異常、裂肛、痔核、炎症性腸疾患、直腸脱、直腸瘤、骨盤臓器脱、大腸腫瘍による閉塞などがあります。
また慢性便秘症を起こす薬剤として、抗コリン薬、抗コリン作用をもつ薬剤(抗うつ薬や一部の抗精神病薬,抗Parkinson病薬,ベンゾジアゼピン、第一世代の抗ヒスタミン薬など)、カルシウム拮抗薬、利尿薬、制酸薬、アルミニウム含有薬(水酸化アルミニウムゲルやスクラルファート)、消化管運動抑制薬、鉄剤など多数ありますので注意が必要です。しかしこれらの薬剤を服用しなければならない場合は便秘薬を服用しても、そちらを優先するのが良いと思われます。
日本人の常習性便秘の約2/3は弛緩性便秘といわれています。
弛緩性便秘の予防や治療には、規則正しい日常生活・食事・排便・適度な運動を心がけましょう。栄養・食生活の面からは、以下に示すポイントについて出来ることから取り入れてみましょう。
食物繊維を多く含む食品を積極的に食べましょう。便量を増大させ、排便リズムを回復させます。食物繊維を多く含む食品は、たけのこ・緑黄色野菜・ごぼう・さつまいも・ふき・七分搗き米・大豆・ひじき・かんぴょう・切干大根などがあります。冷水・冷牛乳を適切に摂って、胃・大腸の反射を促しましょう。
特に起床後の摂取が勧められます。牛乳も小腸ラクターゼ活性の低い人には効果があります。水分は便を軟らかくして排便を容易にする働きがあります。適度に脂質を摂りましょう。
脂質に含まれている脂肪酸が大腸を刺激します。適度の香辛料やアルコール・酸味類・エキス分(肉・魚のうま味分)は、排便を促します。糖分の多い食品は、腸管内で醗酵しやすく大腸運動を高めます。糖分の多い食品には、はちみつ・砂糖・水あめなどがあります。パインアップル・いちご・りんご・牛乳・ヨーグルト・プルーン・梅干など有機酸を多く含む食品を積極的に摂りましょう。
腸管内で醗酵し、ガスを発生させやすい豆類・いも類・かぼちゃ・くりなどを摂りましょう。米飯の難消化性でんぷんが食物繊維と同様の働きをします。白米より七分搗き米・胚芽米・玄米のほうが食物繊維の量も多くなり、より効果があります。食事量の確保も大切です。高齢者などは特に、食事量の過小が便秘の原因になっていることがあります。
これらのポイントに留意するとともに、水分を十分に補給しましょう。特に朝食を欠食しないようにして規則正しい食生活を心がけましょう。それから薬物に頼らず、栄養食事療法・運動療法を根気強く続けて自然な排便リズムを回復することが理想的なので、朝食後など決まった時間での排便を、たとえ便意がなくても毎日続けて習慣化させましょう。
痙攣性便秘は、腸管の自律神経失調によりおこります。大腸の痙攣性収縮によって便の輸送が障害されます。大部分は過敏性腸症候群です。精神的な影響を受けやすく、消化器症状以外の不定愁訴や自律神経失調症状を伴うことがよく見られます。
便秘は間欠で若年者や中年女性に多くみうけられます。予防や治療には、規則正しい日常生活・食生活を心がけましょう。また、過労・ストレスが原因であることも多いため、それらの解消に努めましょう。ただし運動は避け、休養は十分にとりましょう。栄養・食生活の面からは、以下に示すポイントについて、出来ることから取り入れてみましょう。
慢性便秘症の治療には保存的治療と外科的治療が用いられます。保存的治療では、食習慣を含む生活習慣の改善が行われ、奏効しない場合に、薬物治療や状況によっては摘便等の理学的治療が開始されます。現在までのところ、食習慣の改善を含めた生活習慣の改善による慢性便秘症の症状改善効果に関するエビデンスレベルの高い検討がなされていないのが現状ですが、副作用の面、安全性の面ならびに簡便さの観点を考慮すると、試行して問題となることはなく、慢性便秘症治療の第一選択治療として問題ないと考えられます。現在,薬物療法には数種類の異なった作用機序の薬剤が用いられています。薬剤に頼らず、生活習慣で改善するのが一番良いのですが、心臓や肺に疾患のある人は力んだり、息むことで病状の悪化を来すこともあり、適切に薬物を選択して治療することも肝要です。
食事や運動で便秘の改善を図ることは大切ですが、サプリメントなどは副作用があることもあり、注意が必要です。
嘔吐とは、胃の強い収縮によって、胃の内容物が食道に押し上げられて口から出ることです。嘔吐すると胃が空になり、少なくとも一時的には吐き気がかなり治まることがよくあります。嘔吐は極めて不快で、激しいことがあります。激しい嘔吐では、胃の内容物を1メートル以上飛ばすこともあります(噴出性嘔吐)。
嘔吐は逆流とは異なり、逆流とは、腹部の強い収縮や吐き気がない状態で、胃の内容物を吐き戻すことです。例えば、アカラシアやツェンカー憩室の場合、吐き気を伴わずに未消化の食べものが逆流することがあります。嘔吐物の性状は通常、最後に食べた食品を反映しています。嘔吐物に食べもののかたまりが混じっていることもあります。血を吐いた場合(吐血)、通常は嘔吐物が赤色ですが、血液が部分的に消化されていると、嘔吐物がコーヒーかすのように見えます。胆汁が混じっている嘔吐物は苦味があり、黄緑色をしています。
一般的に、「吐き気がする、胸がむかむかする」などの症状がある場合は約7割が消化器の疾患が原因と考えられ、消化器疾患が原因なのか、消化器以外の疾患が原因なのかを判断する必要があります。消化器疾患には、急性胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がん、虫垂炎、腸閉塞などが考えられ、消化器疾患以外では、くも膜下出血、脳出血、脳腫瘍、心疾患(心筋梗塞等)など緊急性を要する疾患や、他の薬の副作用、食中毒、ストレス(精神的嘔吐)などが考えられます。
その際下記の随伴症状がないかというのは重要なポイントになります。
嘔吐では、不快感に加えて、以下の合併症を伴うことがあります。嘔吐物の吸入(誤嚥)、食道の裂傷(マロリー-ワイス症候群)、脱水と電解質異常、低栄養と体重減少などです。意識を失った場合やもうろうとした場合は、嘔吐物を肺に吸い込んでしまうことがあります。嘔吐物に含まれている酸により、肺が強く刺激されます。嘔吐すると食道内の圧力が著しく上昇し、激しい嘔吐では食道粘膜が裂けることがあります( 食道裂傷(マロリー-ワイス症候群))。裂傷が小さい場合は、痛みがあり、ときに出血しますが、裂傷が大きいと死に至ることもあります。嘔吐物で水分とミネラル(電解質)が失われるため、激しい嘔吐では、脱水と電解質異常が起こることがあります。これらの合併症には特に新生児や乳児がかかりやすくなっています。慢性的な嘔吐によって、低栄養、体重減少、代謝異常が生じることがあります。
日常生活上の原因として食べ過ぎ・飲み過ぎ、ストレス、食中毒・食あたり、薬の副作用、妊娠中の悪阻(つわり)、異物が喉につまったなどがあります。また内耳の平衡器官(前庭器官)は嘔吐中枢とつながっています。このつながりがあるため、一部の人は乗り物酔い(船、車、飛行機の揺れ)や、内耳の特定の病気(内耳炎、頭位性めまいなど)によって吐き気を催します。
下痢は、「1日の糞便中の水分量が200ml以上(または、1日の糞便の重量が200g以上)と定義されています。腸の働きが正常な場合、食事などで摂取した食べ物は10時間ほどでS状結腸にたどりつき、ここで消化された食べ物から水分が吸収され、適度な固さの便がつくられるようになっています。しかし、何らかの原因により水分を吸収するはたらきが上手くいかなくなると、水分の多い便が出る「下痢」となってしまうのです。便の中の水分の量が増える理由は図のように1日に9リットルもの水分が腸を通るのです。そしてそのうち99パーセントが腸で吸収され、便の中に混ざるのは残りのわずか1パーセント(100グラム)程度です。消化管でのこのような水分出納バランスが少し崩れただけで、簡単に下痢になってしまいます。下痢になる原因は下痢の種類によっていろいろなものがありますが、主に以下のものに分類することができます。
【浸透圧性下痢】水分を引き付ける力である浸透圧が高い食べ物を食べたことによって腸で水分がきちんと吸収されず、下痢便となるタイプです。人工甘味料の摂り過ぎ、糖分の消化不良、牛乳の摂りすぎなどにより、下痢をするのがこのタイプです。下痢は食物摂取により起こり、絶食により止まります。腹部手術(胃切除、回腸切除)、放射線治療、膵炎などの既往があるかやさらに、ソルビトール、ラクツロース、下剤、制酸剤(Mgを含有するもの)などの薬剤を服用していてもなります。また、体重減少、悪臭のある便、水洗便所の水に脂肪滴浮遊など吸収不良症侯群を示唆する症状です。
【分泌性下痢】腸管内での分泌液が増えることによって起こります。腸に入った細菌による毒素やホルモンの影響など、いろいろな原因が考えられます。感染性胃腸炎や生理中の下痢などがこれにあたります。大量の水様性下痢を特徴とし、絶食にても消失しません。難治性潰瘍の既往、下痢患者の家族歴、下剤服用歴、開腹手術歴、旅行歴、小腸疾患の既往などが問題になります。
【ぜん動運動性下痢】便が腸を通過する時間が短いことで起こる下痢です。過敏性腸症候群やバセドウ病などの甲状腺の病気の場合に起こりやすい下痢です。
【滲出性下痢】腸に炎症が起こったことによって、血液成分や細胞内の液体などが滲み出たり、腸からの水分吸収が低下したりすることで引き起こされる下痢です。クローン病や潰瘍性大腸炎が関係することが考えられています。腸の炎症により腸管壁の透過性が亢進し、多量の滲出液が管腔内に排出されるために起こります。下痢は食事により増強しますが、絶食しても完全には止まりません。便にはしばしは血液、膿、粘液が付着します。食中毒の原因となりうる食物の摂取、海外渡航を含む旅行歴、炎症性腸疾患の既往などが問題となります。その他にも、慢性膵炎や糖尿病の合併症、薬の副作用などで起こると考えられています。
【active ion transport異常による下痢】先天性にCl-の回腸における吸収が障害されているために起こる。小児にみられる稀な疾患で、絶食により下痢は消失ないし軽減する。
【その他】Addison病、副甲状腺機能低下症、肝硬変、Mg欠乏症などでみられる下痢の病態生理は現在のところ不明とされています
下痢の原因としては以下のようなものがあります。
日常診療でよく遭遇する下痢を来す疾患を取り上げてみます。
①感染性胃腸炎
代表的な病原体は、ノロウイルスです。激しい下痢と嘔吐が特徴です。下痢には下痢止め、吐き気には吐き気止めと、薬で症状を抑えたくなる気持ちはわかりますが、かえって症状を長引かせる結果になりかねません。水分摂取と休息を十分にとってください。発熱が酷い場合は、O157に代表される病原性大腸菌などの細菌性胃腸炎の可能性があります。抗菌薬の投与が必要ですので、早めの受診をお勧めします。感染性胃腸炎では、病原体が体内に入ってきても、すぐ下痢などの症状が出現するわけではありません。潜伏期間といって、病原体が症状を出すまでの時間があります。ノロウイルスの場合は、24〜48時間あります。小さいお子さんでは、ロタウイルス感染の可能性があります。小児科で検査が可能で、予防ワクチンもあります。鶏肉の生食摂取の後に起こることで有名なのは、カンピロバクターという細菌性腸炎です。エリスロマイシンという抗菌薬が有効です。長期入院中で免疫の弱っている方の下痢では、MRSA腸炎や偽膜性腸炎を疑います。バンコマイシンなど効力のある抗菌薬がありますが、難治性細菌性腸炎で再発しやすい特徴があります。感染者が身近にいる時、感染予防は石けんと流水での手洗いが基本です。便やおう吐物を廃棄する時は十分な注意が必要です。手袋、マスク、エプロンを着用して処理しましょう。石けんと流水で十分に手を洗ってください。
②潰瘍性大腸炎
近年、発症患者が増えている疾患です。多くの場合、血便がいっしょに起こります。軽い発熱や、渋り腹といったスッキリしない排便状態が続きます。診断には大腸内視鏡が必要です。組織を取って、潰瘍性大腸炎の所見を満たす場合、難病認定され治療費の補助があります。発症する年齢は20〜29歳の若い世代が主体ですが、高齢の方でも発症例はあります。男女差はありません。欧米では非常に多い病気ですが、近年我が国でも患者数が激増しています。原因は不明ですが、遺伝的要素があると報告されています。長期経過例では、大腸がんを合併することがありますので、定期的な大腸内視鏡検査が必要です。治療は内服治療が主体ですが、重症例では腸切除が行われることがあります。
③クローン病
近年、発症患者が増えている疾患です。下痢の他、血便や腹痛を伴うことが多い病気です。口から肛門まで、消化管のどの部位にもできる病気です。大腸内視鏡では、敷石状外観と言って、炎症が強く変形の酷いところと正常に近いところの混在した内視鏡像を呈することがあります。強い炎症により、胃腸が細くなって腸閉塞の状態となることがあります。このため外科手術の適応となることがあります。また消化管に広範囲に影響するため、長期的には栄養療法が重要な疾患です。10歳代~20歳代の若い世代に起こりやすく、約2:1と男性に多くみられます。原因は不明とされ、潰瘍性大腸炎と同様に欧米に多い病気です。またクローン病は瘻孔と言って腸が腸以外と繋がってしまったり、炎症の持続によって腸が細くなったり(狭窄)、膿を体内に作ったり(膿瘍)します。肛門部病変などの腸管外の合併症も多く、治療が難渋しやすい病気の一つです。
④大腸がん
「便秘と下痢を繰り返す」という典型的な症状があります。これは、大腸がんが発育して大腸の管腔が狭くなった状態で起こります。狭くなったところを便が通過せず便秘になり、大腸が詰まった便を通過させようと水分を分泌して便を柔らかくして押し出すことで下痢になります。このサイクルを繰り返し起こすのが進行した大腸がんの典型的な症状です。放置すると完全な腸閉塞となり、命に関わる状態となります。大腸の気になる症状は、大腸内視鏡でチェックすることをお勧めします。
⑤過敏性腸症候群
下痢や便秘など多彩な便の症状です。排便によって症状は軽くなることが特徴です。女性にやや多く、感染性胃腸炎の後に起こりやすいと言われます。大腸内視鏡で調べても何も所見がないにも関わらず、症状が長引きやすい病気です。治療は、ストレスが契機となることが多いことから、生活習慣の改善を基本に、整腸剤や便の性状を整える内服薬などが症状の緩和に有効とされます。
過敏性腸症候群の診断基準として有名な、ローマⅢ基準は以下の通りです。
最近3ヵ月の間に、月に3日以上にわたってお腹の痛みや不快感が繰り返し起こり、 下記の2項目以上の特徴を示します。㋐排便によって症状がやわらぐ、㋑症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする)、㋒症状とともに便の形状(外観)が変わる(柔らかくなったり硬くなったりする)。まとめて示されると、心当たりのある方もいるでしょう。国民全体の1割がこの病気であるとも言われています。原因は不明ですがストレスによるものが予想されています。
⑦虚血性腸炎
腸の血の流れが悪くなり、腸の粘膜が炎症を起こす病気です。症状としては夜にいきなり腹痛があり、そのあと下痢と血便が出るというのが典型です。症状が1週間程度でよくなる一過性型が約65%と最も多いです。腸が狭くなる狭窄型(約35%)、腸が腐る壊死型(約10%)と続きます。以前は、50歳以上の中高年に多い病気とされていました。ただ、最近では20〜30歳の若い人でも見られます。女性に多いのも特徴です。症状が強い場合は入院します。食事を休んで抗生物質の点滴が必要です。心臓や血管の病気を持つ人、糖尿病の人、便秘の人も起こりやすいです。再発することが5〜10%あり、便秘にならないように生活することが大切です。
⑧大腸以外の病気によるもの
大腸以外の病気でも下痢は起こります。
㋐甲状腺機能亢進症;バセドウ病などにより、甲状腺ホルモンが多く作られます。甲状腺ホルモンは体の細胞を活発化させる働きがあります。多くなった甲状腺ホルモンが、体中に働きます。運動した後やお風呂から出た後のように体の代謝が活発化し腸の動きも活発となり下痢をきたします。バゼドウ病の治療をすることで甲状腺ホルモンの量が抑えられると下痢も治ります。
㋑慢性膵炎;膵臓に炎症を繰り返す病気です。炎症によって膵臓の細胞が壊され、膵臓の働きが悪くなります。膵臓は血糖値を下げるインスリンの他にも脂肪やたんぱく質を分解する消化酵素も作っています。そのため、消化吸収がうまくできなくなります。慢性膵炎の下痢は臭いがかなりきついです。また、薄黄色クリーム状で水に浮く脂肪便となります。この下痢に対する治療は、膵消化酵素剤の補充です。
⑨薬剤による下痢
下剤、抗生物質、非ステロイド性消炎鎮痛薬、抗がん剤などが原因として考えられます。
下痢の原因を検査する方法として大腸内視鏡やレントゲン検査を行うことがあります。これらの検査を行うことで腸の状態や、形状などを観察し、下痢を誘発するような病気になっていないかどうかのチェックを受けることができます。これらの検査をして、大腸に病気などの問題があった場合にはその病気に対する治療を行います。特に病気が発見されなかった場合には、お薬を服用していただき、経過を観察します。
薬物療法では、腸のぜん動運動を抑える薬、腸への刺激を抑える薬、便の中の水分を吸い取って便を固める薬、ビフィズス菌等の整腸薬などを症状や下痢の原因となる疾患にあわせて使用します。ただし、ウイルス感染などによって引き起こされている下痢の場合は、ウイルスを早期に体外へ排出できるように、下痢止めのお薬をあえて使用しないということもあります。これらの治療に加えて、下痢以外の嘔吐の症状で水分が取れていないという場合には脱水を予防する目的で点滴を行い、補液(体の中の水分を維持すること)を行うこともあります。
下痢止め薬は、慢性的な下痢に使います。下痢止め薬は以下のようなものがあります。腸運動抑制薬(腸の運動・分泌を抑制する;ロペミン)、殺菌薬(収斂作用や胆汁分泌促進作用で腸内の殺菌を行う;フェロベリン、リーダイ、キョウベリン)、収斂薬(腸粘膜面を覆い、炎症・腸運動を抑制する;タンナルビン、タンニン酸アルブミン)、吸着薬(細菌性毒素などを吸着し腸を保護する;アドソルビン)などがありますが、整腸剤と組み合わせることも多いです。
腸の働きを抑える成分が多いため、副作用として腸がつまる腸閉塞に注意します。急に起こる下痢の多くはウイルスや細菌による感染性腸炎がほとんどです。そのため、先に述べたように下痢止めを使うとウイルスや細菌の排出が遅くなります。感染がかえってひどくなる可能性があるため、感染性腸炎のときは基本的には投与しません。また抗生物質を使うときは、菌の種類により使う抗生物質が変わります。
下痢のときは水分と電解質(特にナトリウムとカリウム)が失われます。その補給をすることが大切です。ドラッグストアで売っているるOS-1などの経口補水液が有効です。おかゆやうどんなど消化の良い炭水化物をとってください。避けるべきものとして、揚げ物や油の多い肉などの脂肪分の多いもの、香辛料、コーヒーなどカフェインの多いもの、アルコールなどはやめてください。また、冷たい水や清涼飲料水や炭酸飲料などの飲み過ぎもひかえてください。注意点は、下痢がひどく脱水症状が強いときです。命にかかわるため、入院のうえ点滴による水分補給が必要となることもあります。特に体力のない幼少児や高齢者では要注意です.
感染性腸炎の原因が細菌性なのかウイルス性なのかを判断するのは非常に難しいです。しかしいずれも水分補給だけで1~3日程度で自然軽快することがほとんどです。ただし、乳幼児や高齢者などの抵抗力が弱い人は、症状が長引くことがあります。おう吐を繰り返して水分をとることができなくなったり、下痢が続くことで体内の水分が失われたりして、脱水を起こしやすくなります。点滴が必要な場合もあります。
胸の痛み(胸痛)が生じる原因として、胸部には、肺、胸膜、心臓、骨、神経、筋肉、一部の消化器臓器が存在し、様々な原因が考えらます。一般的に心臓や肺の病気は胸痛を伴う頻度が高いです。中でも緊張性気胸、急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症、食道破裂などの病気は緊急性を有します。診断には心電図や胸部エックス線検査、場合により内視鏡検査(胃カメラ)、CTやMRI検査が必要になることもあります。しかし症状からおおよその診断がつくこともあります。それには胸痛という症状の性状がどのようなものかによります。
01.狭心症
02.急性心筋梗塞
03.大動脈解離
04.気胸
05.肺炎
06.急性肺血栓塞栓症
07.胸膜炎
08.肋骨骨折
09.帯状疱疹
10.肋間神経痛
11.逆流性食道炎
12.心臓神経症
手足がむくんだり、顔がはれぼったくなるようなことを経験された人は、少なくないと思います。こういった「むくみ」のことを医学的には「浮腫(ふしゅ)」といいます。
浮腫とは、皮下組織(皮膚の下部)に水がたまった状態で、例えば足やすねなどを指で圧迫する(押さえる)と、その痕(あと)がなかなかもどらないような状態の時は、身体に正常な時の体重の5~10%以上の水分の貯留があると言われています。すなわち、ふだんの体重が60kgの人がむくみを認めた場合、体重は63~66kg以上に増えているということになります。浮腫が下腿に認めやすいのは、水分が重力の関係で身体の下の方へたまりやすくなるからです。ですから、寝たきりの人であれば、浮腫は背中や顔に出やすくなります。また、身体にたまる水分が、まだ体重の5~10%に満たない時は、むくみは目では見えませんが、体重は増加してきます。このような場合を潜在性浮腫といいます。今までのことをおおまかに言うと、浮腫は何らかの原因で身体に水分がたまった状態と考えてよいと思います。また、人類が二足歩行を始めた瞬間から重力に逆らって足の血液を心臓にもどすのに大きな負担を強いられるようになり、足のむくみとは無関係でいられなくなりました。
特に高齢者においてはしばしば通常でも下腿や足背に浮腫がみられます。高齢者は年齢による各臓器の機能低下があり、かつしばしば種々の疾患を患っています。また疾患治療のために様々な薬を服用しております。浮腫が加齢によるか、疾病に関連しているか、薬剤性かをまず検討し、限局性か全身性かの見極めが重要となります。主な原因として以下のものがあります
①長時間同じ姿勢を取ること、特に立位、椅子での座位、②塩分・水分の摂りすぎ、③お酒の飲みすぎ、④加齢、⑤過労・ストレスなどがあります。
下血とは、血液成分が肛門から排出されることの総称です。口から肛門までの消化管が出血源となりえます。便がなく血そのものがでるもの・血混じりの便がでるもの、全て下血と言います。
血便とは、赤色あるいは暗赤色の便であり、形状のある便に血液が混じった状態です。見た目でわかるような便もあれば、判断が難しい便もあります。下血・血便は消化管(食道・胃・小腸・大腸)や肛門のなんらかの異常が示唆される状態です。ただ、下血・血便と一言にいっても、色・性状、付随する症状などはさまざまですが、注目すべき点は下血・血便の量と色です。
小腸や大腸からの出血では、肛門に近づくほど鮮やかな色の血便となります。これは、血液中の鉄分が酸化する時間がなくなるからです。上記のような症状が現れている場合には、重篤な疾患に罹患している可能性があり、放置することは非常に危険です。
血便が大腸や肛門といった下部消化管からの出血なのに対し、下血は胃や十二指腸などの上部消化管からの出血した場合を言います。胃や十二指腸で出血すると、便として排出されるまで時間がかかり、その間に血液が胃酸や消化酵素の作用で変色するため、コールタールのような黒っぽい便が出ます。出血が多いと、暗赤色になることもあります。
血便は、目で見て明らかに便に血が混じっているとわかりますが、肉眼では見えないくらいのごく微量の血液が混じっていることもあります。それを調べるのが便潜血検査で、血が認められると陽性の判定が出ます。新鮮血であれば肛門やその付近の大腸(直腸やS状結腸)からの出血が考えやすくなります。ただし、食道・胃・小腸などの上の方からの出血でも、大量出血すれば酸化する間もなく肛門から血がでてきます。多量に新鮮血が出た場合は要注意です。血便が出ると痔だと思ってしまう方が多いようですが、血便がみられる病気はほかにもたくさんあります。それぞれの病気で血の出方や症状に特徴がありますが、似ているものもあるため、自己判断は禁物です。
痔による血便との見分け方としては、大腸がんの血便は血が便全体に混ざっており、痔の血便は便の表面に付着する程度です。また、痔の場合は肛門痛があることが多いです。といっても両者を完全に見分けるのは難しく、肛門に近い位置にがんができた場合は赤い血が付着する程度の血便が出ますし、痔と大腸がんを併発しているというケースもあります。早期にがんを発見できるよう、早目に検査を受けることが大切です。血便が出る病気は、痔のほかにもたくさんあります。
出血多量の場合は食道静脈瘤破裂・出血性胃潰瘍(or十二指腸)・憩室出血・悪性腫瘍の消化管穿破・大動脈瘤消化管穿破などがあります。下血に加えて吐血もある場合は、上部消化管から大量出血をしている可能性があります。
血圧計をお持ちの方は、余裕があれば血圧を測定して下さい。血圧が低い場合は緊急性が高いと考えられるため、救急対応のできる高次医療機関への受診が望ましく、救急受診してください。
血を吐いた場合、喀血(肺や気管支からの出血)か、吐血(食道・胃・十二指腸など消化管からの出血)かを確かめなければなりません。鼻血がたくさん出て、それを飲み込んで血を吐き、吐血と間違われることもあります。基本的に吐血は吐いて出てきます。もし咳と一緒に出てきたときは吐血ではなく喀血かもしれません。特に血液に泡が混じっているときには喀血の可能性が高くなります。胃や十二指腸潰瘍からの出血の場合は、胃酸の影響で血が黒っぽく変色しています。食道からの出血の場合は、こうした影響を受けないため、真っ赤な血を吐きます。吐血がひどい場合は、血圧が下がってふらついたり、頻脈(脈が速くなる)が起こる場合がありますので、できるだけ安静を保ち、すぐに病院を受診してください。出血してから吐血までの時間が短いと吐物は鮮血色です。しかし、数十分から数時間が経過すると胃酸によって塩酸ヘマチンへ変化するために、出血した血液は黒色化していきます。
吐血は生命の危険を伴うことがあり、できるだけ早く医師に診てもらい、検査や処置を受ける必要があります。医師は内視鏡検査で出血した場所や程度、さらに出血が持続しているかどうかを確かめて診断します。出血している場合はその場で内視鏡的に止血します。吐いた血液の量が少なくても、胃の中に出血がたまっている場合があります。
吐血は基本的に上部消化管と呼ばれる食道・胃・十二指腸から出血した場合に起こります。下血は消化管の、どの部位で出血しても起こりえます。吐血の原因には、食道炎、食道がん、肝硬変に伴う胃・食道静脈瘤の破裂、出血性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどがあります。特に出血量が多いのは、食道静脈瘤の破裂、胃・十二指腸潰瘍、マロリー・ワイス症候群(大量の飲酒後、嘔吐に伴って胃と食道との境目が裂けて出血)などによる出血です。
胃炎や胃・十二指腸潰瘍の症状は上腹部の痛みや不快感、胸やけ、膨満感、食欲不振、吐き気、嘔吐などで、胃壁や十二指腸壁からの出血が多い場合には吐血 や下血 をきたすこともあります。吐物のなかに血や凝血が混じっていたり、便の色が黒っぽい時は急いで精密検査を受けましょう。貧血が進んだり、胃壁穿孔や十二指腸壁穿孔、腹膜炎を起こすと生命に危険がおよびます。
吐血は、上部の消化管出血によって起こることが多く、原因としては、胃・十二指腸潰瘍や急性胃粘膜病変が多いです。吐血の性状は、胃酸にさらされる時間が長いほど、鮮血→黒褐色→コーヒー残渣様と変化します。鎮痛薬や頭痛薬は、胃の粘膜を荒らすため、薬も吐血の原因となることがあります。
吐いた血がコーヒー残渣様の色をしているときは、急性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍を疑い、新鮮な血が大量に出てくるようなら肝硬変などを原因とする胃・食道静脈瘤の破裂を疑います。
絶対安静が必要です。絶食にしますが、冷たい水を飲むとよいです。冷やすことにより血管が収縮して、出血がとまりやすくなります。また、みぞおちに氷嚢などを当てて冷やすとよいでしょう。内視鏡検査に備えて、できるだけからだの右側を下に横臥(おうが:からだを横にすること)します。いずれにしろ、緊急に入院して治療を受けることが必要です。
咳嗽は患者さんが医療機関を受診する最も多い訴えの一つです。咳をすると体力が奪われ、生活の質が著しく低下します。また結核菌などの感染症を周囲に広げることにもなります。そのため早急に原因を確定し、対処する必要があります。咳嗽には喀痰をともなう湿性咳嗽と、喀痰を伴わないか少量の粘液性喀痰のみを伴う乾性咳嗽があります。咳嗽の持続期間も重要で、発症3週間以内のものを急性咳嗽、3週間以上のものを遷延性咳嗽、8週間以上続く場合を慢性咳嗽と呼びます。
咳嗽の原因を考えるうえで、持続期間や喀痰の有無は重要です。急性咳嗽の原因の多くは感冒を含む気道感染症であり、慢性咳嗽では感染症が原因となることはまれです。急性咳嗽の原因は多岐にわたりますが、頻度が最も高いのはウイルス性普通感冒であり、遷延性慢性咳嗽では咳喘息、鼻漏症候群、胃食道逆流、副鼻腔気管支症候群が多く見られます。
咳嗽の検査ですが、1~2週間以上持続する咳嗽では肺炎、肺癌、肺結核など除外するため胸部X線写真を撮影します。一般に咳嗽のみの症状で胸部CTまで撮影することは少ないですが、気管支結核、肺癌や気管支拡張症などでは胸部CTを撮影して初めて病変が明らかとなることがあります。鼻症状を伴う際は副鼻腔X線写真を撮影することがあります。
また血液検査として白血球数とその分画、CRP、総IgE抗体、特異的IgE抗体など検査します。時として喀痰検査を行うこともあります。一般細菌、抗酸菌塗抹・培養、細胞診検査が重要です。しかし結果はすぐには出ませんので、臨床症状から治療を開始することの方が多くなります。咳喘息やアトピー咳嗽では喀痰好酸球数が増加していることがあります。自発痰が得られないときは高張食塩水を吸入して痰の喀出を促す誘発喀痰検査を行うこともあります。呼吸機能検査は換気の機能を調べる非常に重要な基本的な検査であり、できるだけ施行することが望まれます。咳喘息では軽度の閉塞性換気障害や気管支拡張剤により可逆性を認めることがあります。間質性肺炎では拘束性換気障害を多く認めます。
咳嗽の治療は、すぐ鎮咳剤を処方するということは出来るだけ避けて、咳嗽の原因を確定しそれに応じて治療する必要があります。多くはその原因に対する治療を行えば咳嗽は改善します。しかしそれでも改善が不十分な場合は鎮咳剤の処方を行います。
遷延性・慢性咳嗽の中にはどんなに検査を行っても原因疾患の確定が困難なこともあり、その場合は最も原因である可能性の高い疾患の治療薬の効果を判定して診断する治療的診断が行われることがあります。また我が国で頻度が高い咳喘息は普通鎮咳剤が無効であり、逆に他疾患では効果がみられない気管支拡張剤が著効します。気管支拡張剤による治療効果は1週間程度で判定できます。