休診日:木曜・土曜午後、日曜、祝祭日
※水曜午前・午後は森先生、それ以外は院長の診察です。
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Digestive
食事をしてからしばらくすると、胸が焼けるようなことはありませんか。胃酸が食道の方へ逆流することによっておこるもので、食生活の欧米化、高齢化によって患者さんは増加傾向にあります。症状は人によって様々ですが、みぞおちから胸にかけてちりちり焼けつくような感じ、しみる感じがあります。また食べ物がのどにつかえたり、飲みにくい感じがしたり、のどがイガイガするという場合もあります。ゲップがすぐに出たり、咳き込んだり、締めつけるような胸の痛みがあることもあります。また逆に全く症状のない人も多く見られます。
内視鏡検査で全く異常がなくてもこうした症状が強い場合はGERD(胃食道逆流症 gastroesophageal reflux disease)といわれ、治療の対象となります。GERDは食道炎ばかりでなく、耳鼻科疾患、呼吸器疾患を引き起こすことも明らかになってきました。食道内の酸の程度(pH)を測定しますと、全く内視鏡検査で異常のない人でも食後と睡眠中に胃液の逆流が証明されています。
胃酸の逆流は食道下部の食道括約筋と横隔膜による締めつけが弱くなった状態でおこり、腰の曲がった高齢者に好発しますが、最近では食生活の変化からか日本人の胃酸分泌機能が亢進してきており若年者にも多くみられるようになっています。この下部食道括約筋の一過性弛緩がGERDの主原因です。胃のヘルニア(胃の一部が胸の方へ上がってしまった状態)では下部食道括約筋の圧が低下し逆流を来しやすくなります。
胃酸ばかりでなく十二指腸液でも食道炎が生じ、その典型例が胃切除後の食道炎でアルカリ食道炎とも呼ばれますが、アルカリ逆流は酸逆流の存在下で2次的に食道粘膜障害を起こしていることが多く、症状出現もその半数以上が酸逆流によるものであることが報告されています。したがって、アルカリ逆流が存在する人でも胃酸を充分抑制することで逆流症の治療は可能です。診断は一般に内視鏡検査が行われます。胃透視検査でも逆流はわかりますが、食道粘膜がどの程度の障害を受けているのかは内視鏡検査でなければわかりません。
治療法としては一般にPPI(プロトンポンプ阻害薬proton pump inhibitor)といわれる薬を中心とした制酸剤が用いられます。当院では主に値段が最も安く、効果の高いタケプロンを主に用いています。この薬の良いところは一日一回の服用で24時間持続的な胃内のpHを上げることです。
またH2ブロッカー(ガスター、ファモチジン、ラニチザン、ザンタックなど)はその酸分泌抑制力はPPIには及びませんが、軽症の患者さんや維持療法として有用で、最近胃排出機能を亢進させるという報告もあり有用な薬です。その他消化管運動改善薬が食道下部括約筋の圧を上昇させたり、胃排出能を亢進させて逆流を減少させることから用いられます。
GERDの外科治療としては噴門形成術が行われます。これは最近では腹腔鏡で行われることが多くなっています。噴門とは食道と胃の境のことで手術成績は以前に比べて最近は格段に上昇しています。特にヘルニアが高度の場合は手術療法が考慮されますが、場合によっては食道の通過障害が起こることもあり、薬で治療できない場合や合併症を伴っているような場合に考慮されます。
日常生活で大切なことは姿勢や体位です。腹圧が上がると逆流が起こりやすくなりますので、いわゆる“りきむ”ような重いものを持ち上げるときの前屈み、便秘の時の排便、腰をかがめての作業は避けなければなりません。また服装も、ガードル、コルセット、帯、ベルトなどで腹部を強く圧迫しないことも大切で、また肥満も腹圧が上昇するので避けなければなりません。就寝時は枕を高くしたり、上半身を高くした体位をとるようにします。
食事も、避けなければならないものとして就寝前の食事、脂肪食、甘いもの、香辛料、コーヒー、緑茶、チョコレート、タバコ、アルコール類などがあげられます。コーヒー、緑茶はそのカフェインが胃酸分泌を亢進させ、アルコールは食道の蠕動低下と食道下部括約筋の圧低下を来します。
胃潰瘍は古くから知られる病気の一つですが、現代人のストレスのせいか減る気配はありません。
特にヘリコバクター・ピロリ菌、鎮痛剤(高齢者が増え腰や膝が痛いということで服用することが多い)、アスピリンの使用などが原因で胃潰瘍が多くなっているようです。症状がある場合から全くない場合まで様々です。しかし、現在では胃内視鏡検査が非常に簡単にできますので発見率が高くなっています。しかもよく効く治療薬ができていますので昔のように手術をすることは非常に少なくなっています。基本的には十二指腸潰瘍も同様です。胃の壁が欠損してしまう状態が胃潰瘍ですが、粘膜内にとどまっている場合は“びらん”といって胃炎と診断されます。この場合は治療ですぐに軽快しますが、進行すると潰瘍となります。
胃から分泌される胃酸は強い酸でpH1~2といわれています。強力な塩酸です。これにより食べ物を分解し、細菌などの侵入を防いでいるのです。このため胃の壁(胃壁)が溶けないように胃の粘膜は自ら粘液を出して胃の粘膜を守っているのです。ストレスなどで胃液の分泌が亢進し、粘液の分泌が低下すると胃壁が溶けて胃潰瘍となるのです。胃潰瘍は男性に多く、中年以降に発症することが多く、十二指腸潰瘍は青年・壮年に多く見られます。
最近特に注目されているのがヘリコバクター・ピロリ菌です。この菌は胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因となるとされています。ヘリコバクター・ピロリ菌に感染している日本人は中年以降では半数に達するといわれています。しかし日本人の半数が胃潰瘍になるかというとそうではありませんので、やはりいくつかの原因が関与した複合要因により発症すると考えられます。なかでもヘリコバクター・ピロリ菌とストレスの組み合わせが最もよくありません。ストレスの解消とともに規則正しい生活が非常に大切となります。
先に述べたように胃潰瘍では症状がないこともあります。特異的な症状はないといえるのですが典型的な場合は上腹部の痛みが食後に起こります(十二指腸潰瘍では空腹時に痛むことが多い)。また心臓病と間違えるような胸痛の場合もあります。
ゲップ、むかつき、胸やけ、食欲不振が起こることもあります。突然に吐血したり(大量の血を吐いたり吐物に血が混じるだけのこともあります)、下血(真っ赤な血ではなくてタール便といわれるコールタールのように真っ黒な便)で発症することもあります。少しでも上腹部になにか症状があれば早めに検査を受けることが必要です。
典型的な胃潰瘍は当然胃透視でも分かりますが、やはり内視鏡検査が診断で最も有用です。以前にも述べましたが、現在内視鏡検査は非常に簡単になっています。胃潰瘍では出血してることもあるのですが、胃透視検査では出血しているかどうかは分かりません。内視鏡では出血していれば止血することも可能です。胃透視では潰瘍のステージ分類も十分にできませんしヘリコバクター・ピロリ菌がいるかどうかも不明です。ただ胃内視鏡検査は潰瘍の診断ばかりでなく早期胃癌の発見という大きな目的がありますから当然熟練した医師による検査が必要です。
潰瘍には良性潰瘍と胃癌があります。今回はこのうちの良性潰瘍について述べているので胃癌については別の機会に述べますが、熟練した医師ならば見ただけで多くの場合良性か悪性の区別がつきます。しかし確認のために生検(胃の組織をとって顕微鏡で細胞を調べる)が必要ですのでやはり内視鏡検査の方が優れていると言えます。現在カプセル型の内視鏡(?)が治験中ですが、生検ができない、観察範囲が不十分、検査時間が長いなど問題が山積みしており当面実用化しそうにありません。それ以上に内視鏡検査が精度が上がり、簡単になってきています。
私は胃潰瘍の患者さんに定期的に潰瘍の状態の把握のために内視鏡検査を受けてもらっています。これは潰瘍の治癒段階を見るためです。潰瘍はその治癒過程を活動期、治癒期、瘢痕期と分けられそれぞれ活動期はA1,A2、治癒期はH1,H2、瘢痕期はS1,S2と分類されています。つまりS2ステージが最終目標ですが、S2ステージになっても再びA1ステージとなる、再発することがあります。このステージによって当然治療薬の種類や量も変わってきます。
胃や十二指腸の壁が傷つき、部分的に欠損した状態が潰瘍です。胃にできた場合を胃潰瘍、十二指腸にできた場合を十二指腸潰瘍といい、両者をあわせて消化性潰瘍といいます。十二指腸ではその始まりのふくらんだ部分である「球部」に好発し、しばしば1つではなく多発します。またあたたかい時期よりも冬季に発生し、季節的に発生頻度に差があることも特徴です。
胃潰瘍は40~50歳代に、十二指腸潰瘍は20~40歳代に多くみられます。男性の患者さんが多く、女性の約3倍といわれています。なんらかの原因で攻撃因子の勢力が防御因子の勢力を上回り、そのバランスが崩れると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症します。このバランスを崩す一つの要因として、ストレスが大きくかかわっていると推測されています。
十二指腸潰瘍の原因として、•ヘリコバクター・ピロリ菌の感染、•イライラ、過労、睡眠不足、緊張、不安、手術前などからくる肉体的・精神的ストレス、 •刺激の強い香辛料や熱過ぎたり冷たすぎる飲食物を摂取し続けた場合、•痛み止め(NAIDs)やステロイドなどの強い薬や長期にわたる服用、•喫煙・飲酒・コーヒー、•暴飲暴食、早食いなど不規則な食生活、などがあげられますが、十二指腸潰瘍の原因の約9割がヘリコバクター・ピロリ菌が原因とされています。
NSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛薬 Non steroidal anti-inflammatory drugs)は鎮痛薬や抗血小板剤として広く用いられCOX(シクロオキシゲナーゼ)という酵素を阻害する作用を有し、このうちCOX-1が阻害されることで胃粘膜防御因子のPGE2(プロスタグランジン)産生低下が生じ潰瘍を生じやすいとされています。COX-2のみを選択的に阻害するNSAIDsでは比較的生じにくいとされています。旧来よりステロイド(一般に糖質コルチコイド製剤)使用にて消化性潰瘍発症が高くなると言われていましたが、近年のメタアナリシス報告で潰瘍発症の有意差は無いことが指摘されステロイドは消化性潰瘍のリスクファクターでは無いことが証明されてきています。
消化性潰瘍の症状の代表的なものは心窩(しんか)部(みぞおち)の痛みで、時には背中に抜けるほどの痛みとなります。痛みの程度と潰瘍の重症度は必ずしも一致しません。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍では、その痛み方に特徴があります。胃潰瘍の場合はみぞおちから左にかけて、十二指腸潰瘍はみぞおちから右にかけて痛むことが多いのです。十二指腸潰瘍の自覚症状の中で最も多いのが腹痛で、みぞおちから上腹部右側辺りに痛みを感じます。十二指腸潰瘍は、空腹時や夜間に腹痛が起こり、食事をすると一時的に治まる症状が多く見られます。また、十二指腸潰瘍で腰痛になったという方がおられますが、これは、十二指腸自体が背中側にあるため、潰瘍が後ろにできた場合や放散痛として出る背中の痛みは、十二指腸潰瘍の症状の特徴でもあります。
胃潰瘍の場合は、食後に痛み出し、あまり食事を取りすぎると長時間痛みが続きます。腹痛が強ければ強いほど、十二指腸潰瘍の状態が悪いわけではなく、十二指腸潰瘍にかかっていても全く痛みを感じない場合もあり、気づかないまま潰瘍が悪化し胃に孔(あな)があき「穿孔性潰瘍」になって、初めて激痛が起こり十二指腸潰瘍に気づくといった場合もあります。痛みが急激に強くなり立っていられず、少しでもおなかをさわると飛び上がるほどの強烈な痛みが起きた場合は、潰瘍が非常に深くなり、胃や十二指腸の内容液が外へ漏れだし腹膜炎となった可能性が高いので、一刻も早く手術のできる病院に行ってください。
潰瘍が深くなると出血を伴うことが多く、一時期に大量に出血すると口から血を吐いたり(吐血)、便に出血したり(下血)しますが、比較的ゆっくりとじわじわ出血が続く場合には出血した赤血球中のヘモグロビンが酸化されて便がまっ黒になりタール便と呼ばれ、胃や十二指腸からの出血に特徴的です。十二指腸潰瘍では、吐血より下血が多く見られます。タール便、下血の場合気づかないこともあり、貧血になってやっと十二指腸潰瘍で吐血していると気づく場合も少なくありません。
下血は、胃潰瘍や胃がん、大腸ガンの症状でもありますし、十二指腸潰瘍になり胃液が多く出すぎで胃粘膜とのバランスが崩れると、胸やけ、酸っぱいゲップなどが起こり、嘔吐、吐き気、食欲不振により体重が減少するなどの症状が出ることがあります。胸やけは胃液が食道に逆流して起こる症状で、胃液が多すぎる場合にみられます。また、十二指腸潰瘍の治癒時や再発を長年起こしている場合など、十二指腸に瘢痕ができて幽門狭窄という病気になることがあり、食べ物がスムーズに通らなくなり、吐き気や嘔吐を起こす場合もあります。
ピロリ菌に感染しているかどうかを知る方法には、いくつかがあり、それぞれに特徴があります。目的に応じて使い分けられており、検査方法の選択を間違えると、正確な結果が得られないこともあるので、どんな方法があるのか知っておくことが大切です。
内視鏡検査を行わないので、苦痛を感じることがありません。
①UBT(尿素呼気試験)
尿素を含んだ診断薬を服用して、服用する前と後の呼気を集めて診断します。袋の中に息を吐くだけなので、比較的簡単にできる検査ですが、最も精度の高い検査法です。除菌前に感染しているかどうかを診断するときと、除菌治療を行ったあと、きちんと除菌できているかどうかを確認する除菌判定の両方に使われています。
②抗体測定法
最も簡単な検査法のひとつで、健診などではこの検査法を採用している場合が多いようです。ピロリ菌に感染すると身体の中に抗体ができますが、血液や尿の中の抗ピロリ抗体を測定してピロリ菌に感染しているかどうかを調べます。ただし、除菌後も抗体価の低下には6~12カ月かかります。そのため除菌成否の判定には不向きの検査法です。
③便中ピロリ抗原測定法
糞弁中のピロリ菌を調べる検査です。お子さんの検査や集団検診にも利用できる精度の高い検査法です。注意点として、採取した便はなるべく早く検査する必要があります。
①培養法
採取した胃の粘膜を培養してピロリ菌がいるかどうかを判定する検査です。結果が出るまで5~7日程度かかります。陽性の判定は正確にできますが、陰性と判定が出た場合、採取した胃の粘膜にたまたまピロリ菌がいなかった可能性もあり、偽陰性となることがあります。培養されたピロリ菌にどの抗菌薬が効くか、薬剤感受性試験も同時に可能です。
②組織鏡検法
採取した胃の粘膜を顕微鏡で観察し、ピロリ菌がいるかどうかを調べる検査です。この検査で明らかに陽性と診断された場合には、感染している可能性が大変高くなります(培養法の場合は100%です)。ただし、胃の粘膜全体にピロリ菌がいるとは限らないので、採取した組織の中に、たまたまピロリ菌がいない可能性もあり、100%の精度とはいえません。この方法では、ピロリ菌の有無だけでなく、胃粘膜の炎症の強さや、ガン細胞があるかどうか、ガンになりやすい胃粘膜があるかどうかなど、さまざまな情報が得られます。
③RUT(迅速ウレアーゼ試験)
採取した胃の粘膜を特殊な液と反応させて、色の変化から菌がいるかどうかを判定する検査です。ピロリ菌はウレアーゼという酵素を持っており、その酵素が液と反応して色の変化が起こります。ただし、ウレアーゼを持つ他の菌でも反応してしまうので、偽陽性となる可能性があります。
消化性潰瘍の原因としては古くから様々な考え方があり、さらに近年はヘリコバクター・ピロリも原因の1つとして重要視されています。また急性胃粘膜病変と同様に非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)も消化性潰瘍の原因とされています。胃はペプシンという消化酵素と塩酸を分泌しますが、これらの消化作用は非常に強力です。ペプシンと塩酸の強力な消化力で胃の壁自体も消化されそうに思われますが、実際にはそのようなことは起きません。胃の粘液分泌や胃の粘膜の血流などが防御因子となり、この攻撃因子と防御因子のバランスがうまく保たれることによって、胃は自らの消化液で傷つくことを防いでいるのです。
しかし、攻撃因子が増強したり防御因子が減弱したりして、このバランスがくずれて攻撃因子が優勢になると、胃の粘膜が傷つき、さらにその傷が深くなり潰瘍に至ると考えられています。これが古典的な消化性潰瘍発生のメカニズムと考えられていましたが、近年のヘリコバクター・ピロリの発見によって難治性潰瘍や再発性潰瘍に対する考えかたは一変しました。ヘリコバクター・ピロリは胃酸が分泌される過酷な胃内の環境で生存・増殖が可能な細菌の一種であり、胃の粘膜に感染を起こすと炎症を引き起こし、さらに粘膜を傷害して、ついには潰瘍を形成するという考えかたがほぼ受け入れられるようになりました。今日では再発をくり返す慢性消化性潰瘍の原因の多くは、ヘリコバクター・ピロリではないかと考えられています。
また直接的にではなくても間接的に消化性潰瘍の誘因となるものには、喫煙、飲酒、ストレス、過労などが考えられており、これらは潰瘍をわるくする方向にはたらきます。ピロリ菌の感染率は、衛生状態のよくない地域ほど高くなっています。ハッキリとした感染経路はわかっていませんが、井戸水や湧水(ワキミズ)、食べ物などと何らかの関係があることが指摘されています。ピロリ菌は、免疫力が低い5歳以下の子どもに感染することがわかっています。日本での感染率は、戦前戦後の衛生状態の悪い時代に幼少期を過ごした高齢者ほど感染率が高く、60歳以上の世代では約80%となっています。しかし、衛生状態のよくなった現在では若者の感染率は低下します。
ピロリ菌に感染した人のすべてが、胃・十二指腸潰瘍を発症するというわけではなく、ピロリ菌感染者のうち、胃・十二指腸潰瘍を発症するのは2~3%となっています。とはいえ、日本での消化性潰瘍の患者数およそ80万人中、ピロリ菌感染者は胃潰瘍で約70%、十二指腸潰瘍で約90%であることがわかっており、ピロリ菌と胃・十二指腸潰瘍には深い関係があると考えられています。
消化性潰瘍の検査として重要なのはバリウムによるX線検査と内視鏡検査です。潰瘍は消化管の傷ですからX線検査ではその傷口にバリウムがたまって診断することができます。また潰瘍のあと(潰瘍瘢痕)などもX線検査で胃や十二指腸壁のわずかな変形として診断できます。しかし診断の精度が高く、またがんとの鑑別に威力を発揮するのは内視鏡検査です。
潰瘍の深さや出血の有無は直接肉眼で観察できる内視鏡検査が優れていますし、現在出血していることが疑われる場合には、まっさきに内視鏡検査をおこなわなければなりません(緊急内視鏡検査)。実際に内視鏡検査をおこなうと、細い血管から出血していることが肉眼で確認され、出血部位を内視鏡用の特殊な小型金属クリップではさんで止血したり、止血のための薬剤を注入・散布したりして出血をとめることができ、大変有効です。潰瘍が悪性かどうか、さらにピロリ菌に感染しているかどうかを組織検査で調べることができるので、内視鏡検査を行ったほうがよいでしょう。
崎田分類という潰瘍の治癒状態を分類したものがあります。1961年に国立がんセンターの崎田隆夫らが作成したものです。元々は内視鏡観察ではなく当時の主流である「胃透視画像(バリウム造影)」から提唱されたものですが、内視鏡観察が広く行われるようになってきた現在でも広く用いられています。
活動期(Active stage):潰瘍辺縁の浮腫像・厚い潰瘍白苔がある時期
治癒過程期(Healing stage):潰瘍辺縁の浮腫像の消失・壁集中像・再生上皮の出現が見られてくる 時期
瘢痕期(Scar stage):潰瘍白苔が消失した時期
当院では毎日、腹部超音波(エコー)検査を行っています。この際しばしば胆石症が見つかります。現代人では食事の欧米化、すなわち脂肪の摂取量の増加とともに増える傾向にあり10~20%の人に胆石があるという報告もあります。
胆石症の典型的な症状は、上腹部から右脇腹にかけて突然激痛が襲う疝痛発作です。痛みは背中に広がることもあり、発作は数分から数十分間隔で襲ってきます。また脂っこい食事の後でひどくなり、食後に起こることが多いです。典型的な三徴として有名なのは発熱・腹痛・黄疸です。しかし典型的症状を訴える方は意外に少なく、胆石の患者さんのうち約半数は一生、症状が出ません。
肝臓は、胆汁を生成し胆管を通して十二指腸に分泌して腸の消化吸収を助け、不要な脂溶性の老廃物を体外に出す、排泄機能を持っています。この胆汁を濃縮して貯蔵しているのが胆のうであり、この胆のうと胆管をあわせて胆道といいます。胆道に胆汁中の成分が結晶となり固体化し、やがて石ができるのを胆石症、胆のう内にできたものを胆のう結石、胆管にできたものを胆管結石、肝臓内でできたものを肝内結石と言います。
胆石も成分によってコレステロール系結石と、ビリルビンカルシウムが主成分の色素結石に分けられます。これらが混合している結石もあります。また炭酸カルシウム結石、脂肪酸カルシウム結石などが見られます。胆石のうちコレステロール系結石が80%、ビリルビン系胆石が10%前後で、特にコレステロール胆石は1対2の割合で女性に多い傾向があります。また食生活の変化からコレステロール結石が増加しています。ビリルビン系結石は胆汁の成分であるビリルビンに細菌などが感染してできたものです。
①腹部エコー検査---当院で毎日行っていますが、胆のう結石については最も鋭敏な検査です。直径1mm前後の結石も検出することが可能です。しかし、総胆管結石の特に下部の方にあるものは大きいものしかわからないことがしばしばあります。これは腸管のガスがあると超音波が通過しないためです。
②CT検査---簡単な検査ですが、直径5mmを超える結石でないと検出できないことがしばしばあります。しかし肝臓結石なども検出が容易であるため、よく用いられる検査です。しかし腹部の横断面しか見ることができません。
③MRI検査---磁気共鳴による検査です。思い通りの断面が得られるのですが、検査に時間がかかり金属を体に埋め込んでいる人(ペースメーカー、動脈瘤クリップなど)はできません。胆のう結石については腹部エコーに劣りますが、胆道系全般の検査が可能です。
④DIC---胆汁中に出る造影剤を点滴して胆道系を造影するものです。これと断層撮影を併用することによって結石や胆道の拡張が描出されます。
⑤ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)---これは内視鏡を用いて胆道の十二指腸への開口部(乳頭)から造影剤を注入して胆道系を造影するものです。造影検査の中では最も技術を要するもので膵管をも造影されて膵炎を起こすことがあります。最近は診断として用いることは少なく、総胆管の結石を乳頭から摘出する際に行うことの方が多くなっています。
⑥腹部単純レントゲン---最も簡単な検査ですが、大きな結石でないとなかなかレントゲンには写らないことの方が多いようです。
以上のいくつかの検査を組み合わせて診断がなされます。
胆嚢結石症では腹部症状がQOL(患者さんの生活の質)に、合併症が生命予後に傷害を与えます。腹部症状については、胆嚢管への結石かんとんにより起こる胆道痛発作が胆石に起因する確実な症状であり、その他の腹部症状は胆石に起因しないことが多く、機能性胃腸症、逆流性食道炎、消化性潰瘍、過敏性腸症候群などとの鑑別がしばしば問題となります。。生命予後を障害する合併症として急性胆嚢炎、胆管結石、急性膵炎、胆嚢癌があります。胆嚢癌の高危険群として、①陶器様胆嚢②膵管・胆管合流異常症③3cm以上の大胆石があげられます。我が国では、萎縮胆嚢や充満胆嚢、胆嚢壁肥厚例などに予防的胆摘術を行う施設が多いが、胆嚢癌の高危険群であるか否かについてはエビデンス(証明)がありません。
治療法は、腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準治療となっており、モニターに手術風景を映して器具で胆のうを取り出すものであり、術後の手術跡もわずかなものとなります。しかし胆管損傷など生命予後を脅かす合併症が、全国集計の結果、約1%認めてられています。
胆道痛以外の症状に対して手術を行うと、術後も症状が持続(偽性胆摘後症候群)したり新たな愁訴が出現します。合併症を伴わない胆嚢結石症では予防的胆摘術により生命予後は延長しないと指摘されています。一般に以前に開腹手術を受けたりして癒着があると考えられる場合は開腹手術となります。
一方、内科治療すなわち胆嚢温存療法である経口ウルソデオキシコール酸(ウルソ:UDCA)療法の胆石溶解療法としての有効性は、①X線透過性②充満型を除く10mm未満の小胆石③胆嚢造影良好の症例に限られましたが、UDCA長期服用者では、結石溶解の正否にかかわらず、胆道痛発作の発生および急性胆嚢炎による胆摘術への移行が経過観察群に比べ著しく抑制され、予後が改善されることが実証されています。
以上から胆嚢結石症の治療適応は、①QOL・生命予後の障害がない無症状胆石②生命予後障害はないが胆石に起因しない③生命予後障害はないが胆道痛発作によるOL障害がある有症状胆石④合併症により生命予後障害がある有合併症胆石⑤生命予後障害がある胆嚢癌高危険群(酔漢胆管合流異常、陶器様胆嚢、大胆石、10mm以上ポリープ)の5群に分類して決定すべきであり、手術危険群や手術を希望しない有症状胆石症の人に対してはUDCAによる対症療法が有効です。
ESWL(体外衝撃波破砕療法)による治療ではコレステロール胆石、結石数単数個、CT石灰化陰性の場合は完全消失率は90.3%。純コレステロール結石の場合は完全消失率87.8%、コレステロール結石、結石数単数個の場合完全消失率81%でこれらがESWLの適応となります。しかしESWLによる治療の再発率は術後1年で6.2%、5年で26.8%、10年で44.4%で高率であるといえます。
溶解療法施行群で完全溶解率30%以上を満たす条件を分析すると、①CT石灰化陰性かつ結石の最大径10mm未満の場合は39.1%、②CT石灰化陰性の場合は35.5%であり、これらが治療適応と考えられます。経過観察群で症状の有無別に15年後の有症状割合を見ると無症状例では15%、有症状例では50%であったという報告があります。したがって上記のような大きな合併症がない、痛みのない場合は内科的治療でよいと思われますが、定期的検査が必要と考えられます。
胆のう結石症と違って総胆管に結石ができた場合は胆汁の流れが滞ることがあり、黄疸を来しやすくなります。この場合、内視鏡を使って胆石を除くことができます。内視鏡的乳頭筋切開術(EST)と内視鏡的乳頭拡張術(EPBD)です。内視鏡(胃カメラ)を総胆管の十二指腸への開口部まで挿入します。そして、開口部の乳頭を前者は電気メス(ワイヤーに電気を通したもの)で切開し、後者は風船によって乳頭を拡張するものです。乳頭を拡げた後、バスケットカテーテルを挿入し、総胆管の結石をつかんで取り出してきます。これには熟練した技術が必要となります。また同じ乳頭に開口している膵管に造影剤が流入することがあり、急性膵炎を併発することもあります。
私もかなりの症例にESTを行った経験がありますが、手技的にはESTよりEPBDの方が簡単なのですが、結石を除去するという面からはESTの方が優れています。私自身は経験がありませんが、EPBDでは膵炎、胆管炎の合併が報告されています。これらは外科手術に比べればはるかに手術侵襲が少なく高齢者でも行えますが、内視鏡を用いる治療ですので胃の切除術を行っている人には困難です。
胆のう結石に対して腹腔鏡下胆のう摘出術を施行した場合に胆のう癌や総胆管結石合併の有無が問題になります。こうした場合に先にESTによる総胆管結石除去を行った後に腹腔鏡下胆のう摘出を行うことがあります。
腹部超音波検査で見つかるような肝内結石はほとんどの場合治療対象とはなりません。小さい結石の場合は症状もほとんどありません。しかし大きな肝内胆管に大きな結石を生じたり、感染を起こしたりした場合は除去する必要がありますが、この場合、外科的に肝臓の一部を切除するしかありません。ただし、胆管が拡張している場合は体外から胆管へ管を挿入して、除去することが可能なことがあります。
胃癌の治療、研究は世界で最も日本が進歩しています。これは日本人には欧米人に比べてはるかに胃癌が多いからです。中国、韓国などのアジアや南米に多いとされています。わが国の臓器別癌死因では胃癌は肺癌に次ぎ2位であり患者数は肺癌の2.7倍です。発症年齢は60歳代にピークがあり男女比は1.88:1 (若年者では女性に多い)です。地域別では寒冷地域や近畿、北九州に多い傾向が有ります。
よく行われている胃癌検診の癌発見率0.1~0.2%です。2003年の日本における死者数は49,535人(男32,142人、女17,393人)で、男性では肺癌に次いで第2位、女性では大腸癌に次いで第2位でした(厚生労働省 人口動態統計より)。かつて日本では男女とも胃癌が第1位でしたが、死者数は年々減少しています。
日本人の胃がん死亡数はあまり増減していません。しかしこの間、胃がんの好発年齢である高齢者の人口は増加しています。胃がん死亡数は、本来ならもっと増加するはずが、そうはなっていないので、死亡率でみると胃がんは減少しているというわけです。これは胃癌診断法の進歩とその治療法の画期的な発達によるものです。胃癌の発生過程でヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の関与が示唆されていますが、はっきりした原因は分かっていません。
ピロリ菌に感染した人の中で癌になる人はごくわずかですが、ピロリ菌に感染したことがある人の胃がんリスクは10倍とされています。その他喫煙、熱いものを食べる、焦げたものを食べる事などが関係しているとされていますが、確たるものはありません。
胃がんはなかなか早期発見が難しい病とされています。多くの場合は、発見された時にはすでに癌の進行がかなり進んでおり、治療が難しいという状態です。これは胃がんは、初期の場合、自覚症状が全くないからです。なかには癌が進行しても特に自覚できる症状が現れないというケースもあります。
胃がんが進行して最初に出る症状としては「胃がムカムカする」「食欲が無い」「吐き気がする」「胸焼けがする」といったものですが、通常はしばらくすると治ると思い、病院に来院しないケースがほとんどです。
自覚症状による胃癌の早期発見はほぼ不可能です。ほとんどの場合、早期癌の段階では無症状であり、癌が進行してからでないとはっきりとした自覚症状が出てこないことが多いからです。また、症状があってもそれほど気にならずに放置する場合が多くあります。胃癌は進行してくると次のような症状が出ててきます。腹痛、(胃部の)不快感 吐き気や嘔吐、食事後の胃部膨満感、食欲減退、体重減少、体調不良や疲労感、消化不良あるいは灼熱感(胸焼け)、吐血や下血・黒色便 などです。
胃癌ではじめに出現する症状は上腹部の不快感、膨満感などであることが多いです。。これらの症状は癌以外の消化器疾患、たとえば慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍でも認められ胃癌に特異的なものではないため、異常があってもがんであるとは考えず、発見が遅れることが多いのです。
これらの他の上部消化器疾患の症状に続いて、胃癌が進行すると腫瘍からの出血に伴う症状が出現します。便が黒色となったり、軟便傾向となる。さらに胃癌からの出血がつづき、貧血が進行すると、貧血による自覚症状、たとえば運動時の息切れ、易疲労感などの症状が現れます。さらに進行すると腫瘍の増大に伴い腹部にしこりを触れたり、食物の通過障害、閉塞症状が現れることがあります。
胃癌の肉眼的分類としては以下のようになります。
です。
また、0型については以下のような亜分類が用いられます。
です。
0型では単一の分類型を示さないことも多い(隆起と陥凹が混在する、陥凹の浅い部分と深い部分があるなど)ので、そのときはより広い病変から+でつないで表現します(IIa+IIcなど)。浸潤の程度による分類では早期胃癌(粘膜下層にとどまるもので、リンパ節転移の有無を問わない)と進行胃癌(固有筋層以下に浸潤)に分類できます。したがって早期がんでもリンパ節転移があることがあります。しかし超早期であればまずリンパ節転移もなく内視鏡での治療も可能ですが、その時は全く症状がないということです。
日本人の胃がんは減っていると言われます。確かに統計でみると胃がん死亡率は減少しています。しかし、胃がんになる人の数(り患数)は、人口高齢化の影響で非常に増えています。つまり胃がんになる人は増加しているが、完治する人が多いため、死亡する人はあまり増加していません。日本人の胃がんは減っていると言われるのは、日本における胃がん早期発見・早期治療の進歩が著しい証拠と考えられます。しかし早期発見しないと癌ですから進行して手遅れになります。
胃癌は胃壁のもっとも内側にある胃粘膜から発生します。進行すると他の臓器やリンパ節にも転移し、胃壁で成長した癌は食道や十二指腸にまでも到達します。胃癌の進行には4通りあります。すなわち、リンパ行性転移(=リンパ流にのって、胃壁に近いリンパ節から順に転移していく)、血行性転移(=血の流れに乗って転移する、胃癌は最初の血行性転移は肝臓が多い)、腹膜播種(ふくまくはしゅ)(=胃壁の外へ出た癌から、癌細胞が腹膜へ種播きされる)、直接浸潤(=胃壁の外へ出た胃癌が、他の臓器へ直接侵攻していく)の4通りです。
粘膜層ではリンパ管や血管の発達がとぼしいので、粘膜内にとどまる早期癌は、まずリンパ節転移や血行性転移をおこしません。粘膜下層も深部まで(筋層に近いところまで)入った癌では、ときにリンパ節転移をおこす例があります。腹膜播種、直接浸潤は癌が胃壁の外へ出ないとおきません。かなり進行した病期で、残念ながら治療に難渋することが多いのが現実です。また、癌が胃壁を越えると肝臓、膵臓、大腸など他の臓器に浸潤し、肺や鎖骨上窩リンパ節あるいは卵巣に遠隔転移します。
組織型としては、殆どが腺癌(胃小窩や胃腺に分化する円柱上皮幹細胞から生ずる)であり、稀にガストリン等の内分泌細胞から生ずる内分泌細胞癌(=高悪性度カルチノイド)が発症します。ごく稀に、腺癌とカルチノイドの両方の性質を持った癌が生じます。また、ごく稀に扁平上皮癌など、胃には無いはずの種類の上皮の癌が生じます(おそらく、化生した細胞を母地とする)。
胃癌が身体の他の部位に浸潤・転移し、その先で同一種類の癌細胞からなる新しい腫瘍を形成すると、それは原発腫瘍と同一の名称で呼ばれます。例えば、胃癌が肝臓に転移した場合は肝臓にある癌細胞は胃癌細胞であり、疾患としての名称は胃癌肝転移となり、(原発性)肝癌ではありません(しかし、WHOなどが行っている各臓器の腫瘍の組織学的分類には、便宜的に「転移性腫瘍」なり「二次性腫瘍」なりの項目が設けてあるのが通常です)。
胃癌と併発することが知られている卵巣のクルーケンベルグ腫瘍(Krukenberg tumor)は胃癌が卵巣に転移した癌です。この腫瘍は最初に発見した医師の名にちなんで命名されてますがが、胃癌と異なる疾患ではありません。クルーケンベルグ腫瘍の細胞は胃癌細胞であり、原発腫瘍と同一の癌細胞です。また、ダグラス窩に転移したものはシュニッツラー転移と呼ばれています。胃癌の診断のために病歴を問診したり、身体所見をとり画像診断や臨床検査を行います。
しかし前述したように症状や身体所見だけでは胃癌の診断が出来ませんのでいくつかの検査が行われます。①上部消化管X線撮影(Upper GI series)、②上部消化管内視鏡検査(Esophagogastroduodenoscopy;EGD, 従来「胃カメラ」Gastroscopic examと呼ばれていたものです)、③便潜血検査(Fecal occult blood test)、④腫瘍マーカー血液検査:癌胎児性抗原(CEA:Carcinoembryonic Antigen)、⑤超音波内視鏡検査、⑥腹部CT(=Computed tomography)検査、⑦MRIはあまり使われないが、CTでの撮影が困難な場合に代用されます、⑧腹部超音波走査(「腹部エコー」とも呼ばれる) です。
しかし胃癌の存在自体を確認するには胃内視鏡検査かバリウムによる上部消化管X線検査が必要です。③の便の検査や血液検査では早期胃癌の発見は難しいです。出血が多い癌でないと分かりませんし、大腸からの出血ほど感度が良くありません。④の腫瘍マーカーは相当進行した癌でないと異常値を示しませんし、⑥や⑦は胃の外に出てきた癌の転移をみるには有効ですが既に癌が進行した時しかわかりません。X線検査で異常が発見されたときも確定診断のためには内視鏡検査が必要です。
内視鏡検査で、異常とおもわれる部位を発見すると、組織の一部を採取する生検(biopsy)が実施されます。生検標本は病理医に送られ、ホルマリンで固定後に染料にて染色され顕微鏡下にて癌細胞の存在の有無が確認されます。場合によっては癌抗原による免疫染色が施される場合もあります。生検とそれに続く病理検査が癌細胞の存在を確定する唯一の手段です。しかし時おり粘膜のみの生検では粘膜下の腫瘍組織を見落とすことがあります。
また内視鏡検査も経鼻(鼻から挿入する胃カメラ)と従来の経口からの方法がありますが、経鼻式は早期がんの見落としが多いことが最も大きな問題で、また精密検査が出来ないため異常があればもう一度経口式でやり直さなければならないことがあります。また経鼻式はあまりテクニックがいりませんので熟練していない内視鏡医が行っていることが多く、さらに見逃し率が高くなる要因とされています。
当院では胃内視鏡検査の際に前処置(薬を飲んでゴロゴロと身体を回転して胃の粘液を除去します)をする精密法を全例に行っていますので早期がん発見率が非常に高くなっています。このほかに現在カプセル内視鏡検査が使われることがありますがこれは小腸疾患の診断には有効ですが時間と費用がかかり、その精度の問題から現在胃の検査では実用的ではありません。鑑別診断には一般に,消化性潰瘍およびその合併症が含まれます。とにかく胃癌の診断には胃内視鏡しかないということです。
検査で胃癌であることが確定すると、胃癌が胃のどの範囲に広がるか、どの深さまで浸潤しているを診断します。胃癌は肝臓、膵臓など近傍臓器に浸潤・転移することがあり、胃の周辺リンパ節への転移は頻度が高いのでCTスキャンや腹部超音波診断でこれらの部位を検査し、肺にも転移するので検査が必要です。これらを総合して病期(stage)の判定が行われます。これは治療方針決定に重要で、日本においては早期胃癌は大きさ、リンパ節転移に関係なく、深達度が粘膜内、粘膜下層にとどまるものと定義されていいます。
胃癌の進行度は、T:原発腫瘍の拡がり、N:リンパ節転移の拡がり、M:他臓器への転移の有無 の3つの指標で評価されます。それらの組み合わせを生存率がほぼ等しくなるようにグループ分けしたのが病期(Stage)であり、数字が大きくなるほど進行した癌であることを表します。国際的にはUICC(International Union Against Cancer)のTNM分類が用いられますが、日本では胃癌取扱い規約による病期分類が広く使用されています。
たとえば胃癌取扱い規約によると、胃の固有筋層まで浸潤する腫瘍で(T2)胃壁に接するリンパ節(1群)のみに転移があり(N1)他臓器への転移がない場合(M0)、StageIIとなります。最終的な病期診断(Final Stage)は手術後に確定されます。外科医は主たる病変を切除するだけでなく、腹部の他の部位の組織サンプルや近傍リンパ節を郭清します。これらの全ての組織標本は病理医の癌細胞検査を受け、最終的な診断はこの病理検査結果を根拠にして決定され、手術後の治療が必要かどうか判断されます。
胃がんの病期(ステージ)分類は深達度はT1からT3の3つに、リンパ節転移はN0からN3の4つに(なし(N0) 1群まで(N1) 2群まで(N2) 3群まで(N3))に分類されます。
(3群リンパ節への転移、もしくは、他臓器に転移のあるもの ( M1 遠隔転移のあるもの ) は 4期)
ステージごとの標準的治療法は以下の通りです。
胃癌の治療はステージによって異なることを述べましたが、基本的に内視鏡的治療、外科手術、化学療法が基本となります。
内視鏡的治療には、内視鏡的レーザー治療、光化学療法などがありますが一般的には次の方法が行われます。スネアと呼ばれる金属の輪を病変部に引っ掛け、高周波電流を流して切り取る方法(内視鏡的粘膜切除術;Endoscopic mucosal resection:EMR)や、専用の処置具を使ってより大きな病変を切り取る内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection: ESD)と呼ばれている方法があります。EMRは内視鏡下で、病巣粘膜の下に生理食塩水、あるいは止血のための 薬剤を含んだ 生理食塩水などを 注入して病変の粘膜を浮き上がらせ、スネアと呼ばれる輪状の針金、あるいは内視鏡で扱える細いナイフ のようなものを用いて粘膜を焼き切る方法です。胃ポリープの時に述べた方法と基本的に同じですが、ポリープは良性ですが、癌は絶対に取り残しがないようにしなければならないところが違います。
EMRは、治療が比較的短時間ですみますが、一度に切り取ることができる病変が、スネアの大きさ(約2cm)までと制限があるのに対し、ESDでは専用の処置具を使い、より広範囲に病変を切り取ることが可能な治療法です。切り取られた病変は、最終的に顕微鏡でその組織の様子が確認されます。このように、ESDでは大きな病変もひとかたまりで取れ、また病理検査でのより正確な診断にも役立つと考えられています。開腹もせず、全身麻酔もかけず、順調にいけば20~30分で終了できます。
ただし、大きな病変で、数切片に分けて切除する場合は 1~2時間かかることもあります。この治療で切除された病変を 2mm 刻みにくまなく検索し、病変のどこにもリンパ管や静脈への浸潤がないこと、粘膜下層への浸潤がないこと、切り口にがんがなく完全に切除していることを顕微鏡的に確認できれば、リンパ節転移をとり残している可能性は極めて低くなります。
万一、これらの所見があれば、通常の開腹手術を行います。合併症としては、出血と穿孔がありますが、仮におこった場合にも、内視鏡下止血や内視鏡下のクリップを使った穿孔部閉鎖術が行われ、それらのために開腹手術を行うことはほとんどなくなりました。
早期胃がんのうち、以下の4条件をすべて満たすものは、リンパ節に転移している可能性が極めて低く、内視鏡的な局所の切除で十分治癒できると考えられます。 ①粘膜内に限局するがん、②組織型が分化型である、③病巣内に潰瘍、あるいは潰瘍瘢痕がない、④大きさが3cm未満である、の4条件です。 早期胃がんの再発が術後 10年前後でもおこりうることから考えて、内視鏡的治療の治療成績が評価されるのはこれからということになります。
胃の手術の歴史は古く、1879年、フランスのジュール・ペアン (Jules Pean) が、1880年、ポーランドのルドヴィク・リディギエール (Ludwik Rydygier) がともに胃癌に対して幽門側胃切除を試み失敗しています。初めて胃切除術に成功したのはドイツのテオドール・ビルロートで、これも胃癌に対して行われた幽門側胃切除で1881年のことでした。同年リディギエールが消化性胃潰瘍に対し幽門側胃切除を行っています。一方、胃全摘を初めて行ったのはスイスのカール・シュラッターで、1897年のことです。日本においては1897年(明治30年)、近藤繁次が日本初の胃切除を成功させています。
第二次世界大戦後、周術期の患者管理の進歩、自動吻合器及び自動縫合器の発明、抗生物質の普及などさまざまな要因により外科手術の成績は飛躍的に向上しました。このことを背景に胃癌手術においては拡大手術が主流とりましたが、1980年代よりとくに早期胃癌を対象に縮小手術が試行され始めました。これは手術後の治療成績に関するデータが蓄積されてきたことと手術後の生活の質(QOL)の向上、医療経済の面からの要請が大きく、現在では腹腔鏡を用いた手術も行われるようになりました。
外科療法は、病巣を含めた胃の切除、周辺のリンパ節の切除(リンパ節郭清)、食べ物の通り道の再建 からなっています。がんが進行していて、すでに腹膜などに転移している場合、主病巣である胃袋の切除と再建だけを行ったり、狭窄部位にバイパスをつくる手術が行われたりしますが、このような手術は姑息的(こそくてき)手術と呼ばれています。これに対して、少なくとも肉眼的には、完全にがんが切除できる場合に、胃の切除、郭清、再建のすべてが行われるものを根治的(こんちてき)手術と呼びます。手術の切除範囲は次のように分類されます。
1.胃部分切除 (partial gastrectomy)-胃の一部を切除する術式です。
切除する範囲は病変の位置により決定されます。
2.胃全摘 (total gastrectomy)-胃を全て切除する術式です。病変の位置によっては食道や十二指腸を合併切除する必要もああります。図で切除部位は紫色で示しています。
胃切除の範囲はがんの部位、進みぐあいの両方から決定されます。
リンパ節郭清が要らないがん、つまりリンパ節へ転移している可能性がほとんどないがんでは、理想的には内視鏡による病巣を含んだ胃粘膜の切除、それが難しい場合には、腹腔鏡または開腹により、胃のごく一部だけを切除する方法(局所切除)がとられます。リンパ節郭清が必要な場合のうち、がんの部位が 噴門に近い場合、または、がんが噴門の近くまで這ってきている場合は胃の全摘、がんの位置が 噴門と離れていれば幽門側胃切除が行われます。
この場合、胃の2/3から4/5程度が切除されますが、胃の入口である噴門は温存され、ある程度の胃体部が残ります。がんの部位が噴門に近くても、比較的小さな早期胃がんの場合は、噴門側胃切除が行われることもあります。 しかし、胃酸の分泌をはじめ、胃袋固有の機能は、胃体部 (胃の上半部) を切除してしまうとなくなってしまうので、胃体部の大きながんに対して、わざわざ幽門前庭部(胃の出口側1/3 )を残すメリットは明らかにされていません。
1つの問題があります。ひとつはリンパ節を郭清していないため、リンパ節再発、さらにそれを核とした全身再発が発生していないか、ふたつ目は病巣ぎりぎりで切除しているので、局所再発がおこっていないかということです。ESDではほとんど再発はないとされています。
胃がんの深達度に比例してリンパ節に転移している頻度が増し、より遠くのリンパ節まで転移している場合が増えます。2群リンパ節は転移頻度も高く、また切除効果も高いので、そこまで含めて切除する方法がD2手術と呼ばれ、現在の一般的な手術となっています。3群リンパ節の郭清効果はまだ評価が定まっていませんが、積極的に行っている病院もあります。
胃の上部がんの2次リンパ節には、脾臓のすぐそばのリンパ節や、膵尾部(膵臓のしっぽにあたる左半分)にそったリンパ節が含まれ、胃とともに膵尾部や脾臓を合併切除することも、しばしば行われます。しかし、膵臓の切除後にその切り口から膵液が漏れたり、感染をおこして膿瘍を合併したりしやすいので、がんが直接膵臓に浸潤していない場合、また、膵臓にそったリンパ節に明らかな転移を認めない場合には、膵臓を切らないでリンパ節だけ郭清する方法をとることが一般的になりました。
脾臓は古くなった白血球、血小板、赤血球などを壊すところといわれていますが、乳幼児のころには 人間の免疫にとって重要な働きをもっています。成人でも、脾臓をとった後には、肺炎球菌という細菌に対する抵抗力が落ちることがあるといわれていますが、頻度は1%以下程度と推測されており必要以上に心配することはありません。むしろ、がんに対する脾臓の影響の方が大きいと思われ、進行がんでは、脾臓は腫瘍に対する免疫力を抑制する方向に働いており、胃全摘の場合、脾臓を合併切除する方がよいという意見もあります。
早期胃がんでは原則的に脾臓は温存されます。この他高度の進行がんで膵頭部と十二指腸全長を胆管とともに切除したり、肝臓、横行結腸を合併切除することもあります。消化管の再建幽門側胃切除後は、残った胃袋と十二指腸を直接つなぎ合わせる方法(ビルロートI法)か、十二指腸断端を閉鎖し、残胃と空腸(十二指腸の次に来る上部の小腸)を吻合する方法(ルーワイ法)で再建されます。
これまで、再建の単純さと流れが生理的ということで、ビルロートI法が多く用いられてきましたが、この方法は縫合不全が多いことや、胆汁が残胃や食道へ逆流することから、再検討されはじめています。「胃角」といわれる胃の中央よりやや出口寄りの部位は、入口と出口が固定されている胃袋が、折れ曲がるところで、そこからこの名前が与えられていますが、この胃角付近に発生した早期胃がんは、胃の出口付近2~3cmの部位を出口の開閉を調節している神経とともに温存し、それと胃の入口側1/3からなる残胃を吻合する「幽門保存胃切除」という方法で治療されることが増えてきました。幽門の排出調節機能を温存でき、後遺症の少ない手術です。しかし、3~4週間程度で回復しますが、14~15人にひとりくらいの割合で、術後早期の時期に、胃に食物が停滞し、なかなか食事が進まない方がいます。
胃全摘は食道と十二指腸の間に腸を代用胃として入れる空腸間置法と、十二指腸断端を閉鎖してしまう方法に大別できます。各々に、まっすぐな腸管をそのまま用いる方法、空腸のループを用いる方法、 空腸で袋をつくり、代用胃(パウチ)とする方法などがあります。これらは術者の好みで行われている状況でどの再建法が最も優れているかを客観的に評価した十分なデータはありません。図は①幽門側胃切除後のビルロートI法による再建、②幽門側胃切除後のビルロートII法による再建、③胃全摘後のRoux-en-Y法による再建、④胃全摘後の空腸間置法による再建、⑤胃全摘後のRoux-en-Y法による再建、です。
通常のリンパ節郭清を行うと、幽門の開閉を調節している神経が切れてしまい、胃の出口が閉じたままになってしまいますので、胃全摘や幽門側切除では幽門も含めて切除します。そのため、手術後は食べ物が、胃や代用胃(小腸でつくることが多い)にたまっている時間が短く、食べられる量が少なくなり、かつ、早くお腹がすくという食生活のパターンになってしまいます。
局所切除や、内視鏡的切除を選ぶことの意味は、胃の2つの門を残すことで胃の機能が温存できるので、従来とほとんど変わりない食生活ができます。しかしリンパ節転移のある確率が10%のがんの場合に、この治療を選択するということは、10人にひとりの割合で、やがてがんが再発する、ということになります。
一方、手術がもとで亡くなる確率は、全摘出でおよそ1%、幽門側胃切除で0.2%ですから、転移の危険性が1%程度の場合は局所的な治療を選ぶのも道理かもしれません。また、余病のある人では、手術の危険性は通常より高くなりますので、手術の危険性と後遺症、がんの再発の防止という観点から、どの治療法が最適かを担当医とよく相談することが大切です。
手術のリスクと合併症胃がんの手術で、合併症として最も多いものは、膵臓周辺のリンパ節を郭清することによっておこる膵液瘻(すいえきろう:膵臓の分泌液である膵液が一時的に漏れる状態)です。膵尾部を切除した場合では40%、 膵臓は切除せず、脾臓と脾臓につながっている動脈を一緒に切除し、膵尾部周辺のリンパ節を完全に郭清する場合は約20%で発生します。いずれも胃の上部のがんでしか行われない手術法で、幽門側胃切除の場合は膵液瘻はまれです。
次に問題となるのは、消化管をつないだ部分が漏れる縫合不全です。この合併症は手術後の死亡に最も結びつきやすいものです。10年前のデータでは、胃全摘や噴門側切除後の食道空腸吻合では、縫合不全が約4%ありましたが、最近の5年間では1%に改善しました。幽門側胃切除後、胃と十二指腸を直接つなぐ方法では2~3%、胃と空腸をつなぐ方法では0.3%程度です。手術後の在院死率(一度も退院できずに死亡する方の割合)としては、胃全摘後で1%、幽門側胃切除後で0.2% です。その他、腹壁の感染、肺炎、出血、腸閉塞などの合併症が1~2%みられます。
手術後の後遺症では胃の手術を受けて一番大きく変わるのは食生活です。胃全摘や幽門側胃切除で、「速やかに相当量の食物を受けつけ、それらを一定時間蓄えて効率よく徐々に腸に送り出す」という、胃の本来の役割が損なわれてしまいますので、食物を早く食べることが難しくなり、同時に早くお腹がすくようになります。また、胃の出口が開放状態なので、食べ物が食後ただちに、どんどん小腸へ流れ込み、消化吸収されるので、血液中の糖分の値(血糖値)は食後急激に上昇します。
それに反応して、血糖値を下げるホルモンであるインシュリンが大量に分泌されるのですが、そのころには 食物の糖源はすでにほとんど吸収された後ですから、血糖値はどんどん下がってしまいます。そのため、食後2~3時間のころに突然、脱力感、冷汗、倦怠感、集中力の途絶、めまい、手や指の震え、まれですがひどい場合は意識が遠のくようなことまでおこります。これを後期あるいは晩期ダンピング症候群と呼びます。
これに比べてまれにしかみられないのですが、食事直後から30分以内に発現する動悸、発汗、め まい、眠気、腹鳴 (お腹がごろごろはげしく鳴ること)、脱力感、顔面紅潮や蒼白、下痢 などがおこることがあり、早期ダンピング症候群と呼ばれています。これは主として、糖分の濃い食物がそのまま腸に流れ込み、その浸透圧に反応して、多量の腸液が急激に分泌されておこる現象とされています。この他には、術後20~30%の頻度で胆石が発生し、またカルシウムや鉄分の吸収が悪くなる、といわれています。
胃がんの抗がん剤治療には手術と組み合わせて使われる補助化学療法と治療が難しい状況で行われる抗がん剤中心の治療があります。抗がん剤の副作用は人によって程度に差があるため、効果と副作用をよくみながら行います。
(1) 手術療法(外科療法)で切除しきれない場合
転移があって切除できない場合や、手術後に再発した場合、抗がん剤が試されます。さまざまな抗がん剤が開発されており、腫瘍縮小効果(奏効率)の高い薬剤も出てきています。しかし、いったん小さくなった腫瘍もまた再燃しますから、完全に治ることはほとんど期待できません。副作用は必ずといってよいほど出ますから、効果と副作用をよく見極めながら抗がん剤治療を続ける必要があります。有望な薬剤の組み合わせとしては、フルオロウラシル+シスプラチン、メソトレキセート+フルオロウラシル、エトポシド+アドリアマイシン+シスプラチン、シスプラチン+イリノテカンなどをあげることができます。
(2) 再発を予防する化学療法(補助化学療法)
手術で切除できたと思われる場合でも目に見えないがんが残っていてあとで育ってくるのが再発です。これを予防する目的で行われるのが補助化学療法です。手術のすぐあとですし、治ってしまっている可能性もありますから、あまり副作用の強い薬は使えません。普通、飲み薬の抗がん剤(経口抗がん剤)が用いられます。補助化学療法が本当に再発を減らす効果があるのかどうか、これまで十分な証拠がありませんでしたが、日本全国の100余りの病院が協力して行った臨床試験で、病期IIとIIIの胃がん手術後にTS-1という経口抗がん剤を1年間服用すると再発が減るという結果が出ました(2006年)。今後は、これが標準的な治療として行われるようになると考えられます。
(3) 手術の前に行う化学療法(術前化学療法)
手術で切除できると思われるがんでも、まず抗がん剤で小さくしておいてから手術するほうが、より確実に切除できるかもしれません。あるいは、そのままでは切除できないかもしれないがんも、抗がん剤で小さくなれば切除できるかもしれません。これをめざして行うのが術前化学療法です。
しかし術前化学療法がまったく効果がなかった場合、単に手術が遅れるだけでなく副作用で手術の条件が悪くなることさえありえます。したがって術前化学療法を行うかどうかは、科学的根拠にもとづいて慎重に決定する必要があります。現在、さまざまな抗がん剤の組み合わせが試されていますが、米国では、さらに放射線照射を組み合わせる治療も試みられています。術前療法は有望ではありますが、まだ実験的な段階であることを知っておく必要があります。
1999年から翌年にかけてTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)をはじめ、イリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)、タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)と新しい抗がん剤が相次いで進行・再発胃がん治療の現場に登場しました。そのなかでもその効果の高さから、現在の治療の主流になっているのがTS-1です。この薬剤は日本で開発された、やはり5-FUの進化型の抗がん剤で、体内で5-FUの抗がん成分を高濃度に保つ特性を持っています。副作用も5-FUに比べると軽微で、利用しやすい経口タイプであることも特長です。数種類の薬を併用して副作用を強く、作用を強くする工夫もされています。
食道癌は症状が出にくく非常に予後の悪い疾患です。食道はのど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ約25cm、太さ2~3cm、厚さ4mmの臓器です。大部分が胸部にあり、一部(約5cm)は首にあり一部(約2cm)は腹部にあります。食道癌は組織学的には扁平上皮癌といわれるもので全体の93%以上を占めます。腺癌は少ないのです。
しかしアメリカでは最近扁平上皮癌の割合が低下し現在では約半数を食道胃接合部近傍の腺癌が占めるとされています。これは禁煙による発癌発症予防効果が扁平上皮癌で高いためといわれています。つまり食道癌の発症リスクは喫煙と飲酒が大きな要素を占めており、次いで熱いものを食べる、辛いものを食べる、焦げたものを食べるなどが挙げられます。
初期は全く症状がなく少し進行すると食道違和感などの不定愁訴に近いものしか症状がなく、またリンパ節転移が多いこと、食道は他の消化管と違い漿膜を有していないため比較的周囲に浸潤しやすいことなどから進行が早く発見が遅れやすいのです。
食道癌と診断された人はその時点で74%に嚥下困難があり、14%の人に嚥下痛があります。57%で体重減少がみられBMIで10%以上の体重減少では予後不良です。また呼吸困難、咳嗽、嗄声(声がかれる)、背部痛などでは病変は進行していることが考えられます。
食道造影(バリウム検査)で比較的簡単に癌による食道の狭窄を描出できますがこの検査では早期癌の診断は困難です。内視鏡検査を行いますが症状が出てから発見する場合はやはり進行癌が多いようです。ルゴールという色素を撒くと癌細胞は正常細胞と違って染色されず白く浮き出ますので癌の存在を的確に知ることができます。
繰り返しますが食道癌は消化管の中では予後はきわめて不良です。これはリンパ節転移が多いこと、漿膜がないため比較的周囲に浸潤しやすいこと、そして周囲の臓器が心臓、大血管、気管など手術困難な場所であることが関与しています。
食道癌の5年生存率(5年後に何人が生存しているか)は1970年代では4%でしたが現在では14%ほどです。これは胃内視鏡検査が発達したためと思われます。早期のものなら助かりますが、手術をして癌を摘出すると症状が軽減する期間は長くなりますが、完治することはないようです。なぜなら手術をする前にほとんどが転移していることが多いからです。
当院でも何人かの食道癌患者を発見していますが、いまでも元気にされている方は毎年のように胃カメラをされていて症状もなく偶然に見つかった人たちです。やはり症状が出てからでは進行していると考えるのがよいようです。(私が1年に1度の内視鏡検査を勧めるのには理由があるのです!)
食道癌は症状が出にくく非常に予後の悪い疾患で胃内視鏡検査でないと早期発見は難しいことを前回述べました。CT(コンピューター断層撮影)は食道とその周囲の臓器との関係を調べる優れた方法です。食道の周りには気管、気管支、肺、大動脈、心臓などの重要臓器がありこれに浸潤しているかどうか、リンパ節転移があるかどうかをみるのに有用です。MRIも同様の所見が得られますがCTに比べて特に優れているというものでもありません。
食道癌の進行度は深達度、リンパ節転移があるかどうか、他の臓器への転移で決められます。0期は癌が粘膜内にとどまっており、リンパ節、他の臓器、胸膜、腹膜に癌が認められないものでいわゆる早期癌と呼ばれるものです。Ⅰ期は癌が粘膜内にとどまっているが近くのリンパ節に転移があるものか、粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器さらに胸膜、腹膜に癌が認められないものです。Ⅱ期は癌が筋層を超えて食道の壁の外にわずかに癌が出ていると判断された時、あるいは食道の癌病巣のごく近傍に位置するリンパ節のみに癌があると判断された時、そして臓器や胸膜、腹膜に癌が認められない状態です。Ⅲ期は癌が食道の外に明らかに出ていると判断されたとき、食道壁に沿っているリンパ節かあるいは食道の癌から少し離れたリンパ節に癌があると判断され他の臓器か胸膜、腹膜に癌が認められない状態です。Ⅳ期は癌が食道周囲の臓器に及んでいるか、癌から遠く離れたリンパ節に癌があると判断されたとき、あるいは他の臓器や胸膜、腹膜に癌が認められた場合です。
上図は食道癌の病期とその後の生存率の関係を示したものですが、0期、Ⅰ期の比較的早期の癌に比べてそれ以上に進んだ癌では明らかに手術成績が不良でありⅢ期以上になると5年生存率は3割を切ってしまいます。手術以外の治療法としては内視鏡による治療(内視鏡的粘膜切除術(EMR、ESD))と放射線治療がありますが前者は粘膜内にとどまる早期の癌に対して行われ進行癌には適用されません。放射線療法がどの病期の癌にも用いられますが、放射線と抗ガン剤を用いる化学療法の併用療法が有効とされています。上の写真は内視鏡的に電気メスで粘膜切除を行っているところ(ESD)ですが、これはあくまでも早期癌でしか行えないものです。
やはりいかにして早期に癌を見つけるかが大切です。したがって症状がなくても検査が必要なのです。
胆嚢炎は、胆石症や細菌感染などが原因で起こる胆嚢の炎症です。急性胆嚢炎、慢性胆嚢炎、無石胆嚢炎、気腫性胆嚢炎と様々な胆嚢炎があります。胆嚢腺筋症を発症した場合は胆嚢癌との区別がつきにくいため手術で胆嚢を摘出することが多くなります。急性胆嚢炎は胆嚢の出口が結石やがんで閉塞することで起こります。
脂っこい食事が引き金になったり、胃の手術後に起こることもあります。
急性胆嚢炎の初期症状は、右上腹部の痛みや吸気時の腹痛(Murphy徴候)、時に右肩の痛み、右肩甲骨付近や右側腹部の痛みが続くことや、吐き気や嘔吐、発熱などです。高齢者は熱を出さないこともあります。持続した炎症が続くと、右腹腔内での癒着が出現することがあります。自然治癒することもあります。
症状が続く場合は合併症を引き起こした可能性が高くりなり、白血球上昇、胆嚢壊疽、胆嚢穿孔、黄疸、膵炎、イレウス症などの合併症があります。激痛を訴えて、腹部全体が硬くなっている時には、胆嚢が破れて腹膜炎を起こしている可能性があります。無石胆嚢炎は大腸菌による細菌感染や動脈閉塞、腫瘍などが原因で起こります。
急性胆嚢炎は約9割が胆石によるものです。胆石が胆管に蓄積し、閉塞することによって炎症を起こします。胆石保持者の発症が多く、ほかは膵酵素の逆流などがあります。胆嚢に起きた炎症が胆管に及ぶケースがありますが、同時に起こるというわけではありません。
胆管炎は、胆嚢炎に比べて急性のものが多く、そのため症状も重くなります。炎症が起こると徐々に熱が上がり、39度を超える高熱と黄疸が出てきます。胆嚢炎の慢性のものは、特に症状がなく、食事をしたあとに、腹部に不快な症状がでたり、痛みが現れたりします。
急性胆管炎、胆嚢炎の診療ガイドラインに基づくと急性胆嚢炎の診断は
AのいずれかならびにBのいずれかを認めるものが疑診であり、疑診に加えCを確認した場合は確診となります。ただし急性肝炎やほかの急性腹症、慢性胆嚢炎は除外できるものとされています。
急性胆嚢炎の特徴的画像検査所見は以下のようにまとめられます。
超音波検査;sonographic Marphy sign(超音波プローブによる胆嚢圧迫による疼痛)、胆嚢壁肥厚(>4mm)、胆嚢腫大(長軸径>8cm、短軸径>4cm)、頓挫した胆嚢結石、デブリエコー、胆嚢周囲液体貯溜、胆嚢壁sonolucent layer、不整な多層構造を呈する低エコー帯、ドプラシグナル
CT;胆嚢壁肥厚、胆嚢周囲液体貯溜、胆嚢腫大、胆嚢周囲脂肪識内の線状高吸収域
MRI;胆嚢結石、pericholecystic high signal、胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚 などが知られています。
急性胆嚢炎または慢性胆嚢炎のいずれの場合も、胆嚢の発作は最初に痛みとして起こります。胆嚢炎の痛みは胆石が原因の場合と似ていますが、より激しく痛み、継続時間も長くなります(6時間以上続き、12時間を超えることも少なくない)。
痛みは15~60分後にピークに達し、その後一定に保たれます。通常は右上腹部に痛みが生じます。耐えがたい痛みになることもあります。多くの場合、触診で右上腹部を押すと鋭い痛みを感じます。深く呼吸すると、痛みが強くなる場合があります。痛みは、しばしば右肩甲骨の下部や背中に広がります。
吐き気や嘔吐もよくみられます。2~3時間のうちに、右腹部の筋肉が硬直することもあります。急性胆嚢炎患者の約3分の1で発熱が起こります。発熱は徐々に上昇し38℃を超えることが多く、悪寒を伴うこともあります。慢性胆嚢炎の患者では発熱はまれです。
高齢者の胆嚢炎では、最初の、あるいは唯一の症状が全身性です。たとえば食欲不振、疲労感、脱力、嘔吐などです。発熱がみられないこともあります。多くの場合、発作は2~3日で治まり、1週間で完全に消失します。
急性発作の持続は、重大な合併症の合図と考えられます。高熱、悪寒、白血球数の著しい上昇、腸管の規則的な収縮運動の中断は、腹部の胆嚢付近に膿瘍(膿がたまったくぼみ)があるか、胆嚢穿孔が起きていることを示します。膿瘍は、組織が壊死して起こる壊疽から発生します。
無石胆嚢炎では、何の症状もなく胆嚢の病気の徴候がない状態から、突然上腹部に耐えがたい痛みが起こるのが典型的です。炎症はきわめて重症であることが多く、胆嚢の壊疽や破裂を引き起こします。たとえば、別の理由で集中治療室にいる患者など、他に重い病気がある場合、最初は無石胆嚢炎が見過ごされがちです。症状は限られていて、腹部の腫れ(膨張)と圧痛、原因不明の発熱がみられることがあります。
治療を行わないと、無石胆嚢炎の患者の65%は死亡します。急性または慢性胆嚢炎の患者は入院する必要があります。飲食は許可されず、水分と電解質の点滴補給を受けます。腸が正常に収縮していない場合は、鼻から胃の中にチューブを入れ、吸引を行って胃を空にすることで、腸にたまる体液を減らします。多くの場合、抗生物質を静脈内投与し、鎮痛薬を投与します。
炎症の程度に応じて、抗生物質による治療を行う方法、胆嚢に針を刺して感染した胆汁を抜く方法、胆嚢を直接手術で取る方法があります。急性胆嚢炎の患者さんの90%は胆石をもっており、内科治療で一時的に改善しても再発する危険性があるため、最終的には手術をおすすめすることになります。
手術の時期については、発症時に行う場合と、炎症が落ち着いた後に行う場合があります。急性胆嚢炎であることが確定し、手術のリスクが小さい場合、通常は症状が現れてから24~48時間以内に胆嚢を摘出します。48時間以内に手術を行ったほうが待機手術よりも良好であることが報告されています。必要に応じて、発作が治まっている間は摘出手術が6週間以上延期されることがあります。手術のリスクが大きい疾患のある患者(心臓、肺、腎臓の障害など)の場合は、しばしば延期が必要になります。膿瘍、壊疽、胆嚢の穿孔のような合併症が疑われるときは、緊急手術が必要になります。
当院の患者さんのほとんどは1年に1回は胃内視鏡検査を受けておられますので、なかにはポリープがあるといわれた人も多いと思います。
ポリープというのは細胞の異常増殖によってできた突起物のことで、きのこ状の有茎性・亜茎性のもの、根もとが広い無茎性のものがあります。これらが胃の粘膜の最も上の層(上皮)にできたものを胃ポリープといいます。
ポリープは自覚症状はほとんどありません。しかし、大きくなると出血したり、食べ物の通過を妨げるため吐き気や痛みを伴うこともあります。ポリープの語源は、ギリシア語のpolupous(“多くの足”の意)に由来します。
臨床の現場では、基本的に良性の隆起性病変を指す肉眼的な名称として使われています。日本消化器病学会は胃ポリープを、「胃粘膜上皮(いねんまくじょうひ)の異常増殖に基づく胃内腔に突出した病変」と定義しています。
胃ポリープで、臨床上多く見かけるものは、腺腫性ポリープ、過形成性ポリープ、胃底腺ポリープの3つです。
腺腫性ポリープは良悪性境界病変に相当し、一般には胃腺腫(いせんしゅ)と呼ばれます。高齢の男性に多く、肉眼的には扁平な花壇状、菊花状隆起で色調は褪色で蒼白にみえます。前がん病変と考えられており、2cm以上になると約半数にがんの合併があります。男性に多く男女比は4:1です。
高齢者の萎縮性粘膜にみられ、形はドーム型、平たいもの、花壇状など様々です。灰白色で整った凹凸があります。背景粘膜に強い萎縮がみられることから腸上皮化生粘膜(胃の粘膜が腸の粘膜様に性質が変化すること)から発生すると考えられていますが、詳細な病因は不明です。
過形成性ポリープはやや女性に多く、大きさや形態は限局性の発赤した小隆起から、茎(くき)をもつ大きなものまでさまざまです。びらんなどで粘膜の欠損が起きると、粘膜の上皮がその欠損を過剰に修復しすぎて、ポリープができると考えられています。ヘリコバクター・ピロリという細菌の感染が多いことから、胃粘膜の萎縮と腸上皮化生粘膜が本ポリープの好発する胃粘膜環境であるとも考えられています。慢性胃炎をもつ人に多くみられます。30歳以上で年代と共に増加する傾向にあり、腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)(胃がんと非常に関連のある組織)との関連はあまりなく、がん化することはまれです。高さが高くなり、大きさが増したりして進行していきます。普通、直径2~3センチどまりです。非常に赤く、表面にイチゴのような顆粒状の凹凸があります。出血やびらんも多くみうけられます
胃底腺ポリープは、右下写真のように米粒大の正色調の小さな無茎(むけい)ないし亜有茎性(あゆうけいせい)の隆起性病変で数個以上発生します。中年の女性によく起こり、がん化せず、しばしば自然に消失します。背景粘膜には萎縮がなく、酸の分泌が盛んです。ヘリコバクター・ピロリの関与は否定的です。数ミリ程度の半球状のポリープで、表面は滑らかで、特に色の変化はなく、多発します。
胆嚢に発生する悪性腫瘍で、わが国での発生頻度は5万人に1人程度です。好発年齢は60-70歳台で、男女比は1:2と女性に多く見られます。胆嚢癌は症状が出にくいため早期発見が困難で、発見時には根治手術不可能となっていることもしばしばです。
診断には腹部の超音波検査やCT検査が有用です。胆嚢内の辺縁不整な腫瘤や胆嚢壁の肥厚として描出されます。また胆石の手術をしたところ偶然、胆嚢に癌を認める場合もあり、進行度によっては追加開腹手術が必要となる場合があります。
悪性腫瘍の中では治療困難な腫瘍のひとつと考えられています。胆嚢がんと関連ある病気のひとつとして胆石症があります。胆嚢がんの50-60%に胆石の合併を認め、また胆石症の2~3%に胆嚢がんを認めますが胆石が胆嚢がんの直接の原因にはならないと考えられています。
早期胆嚢がんは通常無症状ですが、胆石症や胆嚢炎を合併する場合には右季肋部、心窩部の疼痛や、黄疸など胆石症、胆嚢炎による症状を呈することがあります。進行胆嚢がんでは腹痛や右肩への放散痛、食欲不振、全身倦怠感、体重減少、黄疸、嘔吐などの症状が見られることがあります。
胆嚢癌は胆嚢内腔の上皮より発生します。初期の癌は胆嚢内腔に沿って平坦に発育することが多いですが、胆嚢内腔にポリープ状に突出し超音波検査などで発見されることもあります。癌はやがて胆嚢壁に浸潤し、リンパ管や神経に沿って転移を起こします。さらに増大した癌が胆管を閉塞すると黄疸や胆管炎を起こし、この時点で初めて自覚症状が出現します。癌は肝臓、十二指腸、結腸など周辺臓器を巻き込むとともに、肝臓、リンパ節、腹膜などに転移し、やがて個体を死に至らしめます。
検査としては以下のものがあります。
超音波検査;胆嚢の観察には最も適した検査法です。癌は胆嚢壁の異常な肥厚として描出されます。ドップラー法で内部に血流が見られることもあります。また、直径が1cmを超える胆嚢ポリープは癌を疑われます。
CT;癌は造影効果を有する胆嚢壁の肥厚として描出されます。また肝動脈など周辺臓器への浸潤や、リンパ節転移、肝転移、遠隔転移の診断にも有用です。
MRI;造影剤を用いずに胆管・胆嚢内腔を描出することが可能であり(MRCP)、隆起型の胆嚢癌の診断に有用です。
内視鏡的逆行性胆道造影(endoscopic retrograde cholangiography; ERC); 消化管内視鏡を用いて乳頭部からチューブを挿入し、造影剤を注入して胆管を描出する検査ですが、一般に入院で行われる検査です。
胆汁細胞診;ERCの際に採取した胆汁を顕微鏡下に観察し、癌細胞があるかどうか調べます。
生検;生検針などを用いて病変の組織を採取し、顕微鏡下に観察するものですが、技術的困難があり通常行われることはまれです。典型的な胆嚢癌の組織は腺癌です。
胆嚢がんでは70%、胆管がんでは67%の人が外科的治療を受けており、がんに侵されている部分を手術によってすべて取り除く治癒切除術が標準治療となります。
治癒切除の方法は胆嚢や胆管だけを切除するものから、膵臓の一部と十二指腸の切除、肝臓の切除などの組み合わせがあります。しかし、なかにはいくら広い範囲を取り除いても再発する場合もあります。
治癒切除ができない場合でも、黄疸を取り除いたり、腫瘍の圧迫による腸管の閉塞を解除するために手術を行う場合もあります(姑息的(こそくてき)手術)。単純胆嚢摘出術は胆嚢のみを切除する術式で、リンパ節転移のない早期胆嚢癌に行われます。現在ではそのほとんどが腹腔鏡下に行われるようになりました。
拡大胆嚢摘出術は胆嚢近傍の肝実質(肝床部)も胆嚢と一緒に切除する術式で、肝床切除術ともいわれます。胆嚢癌は肝床部に浸潤しやすいことから、肉眼で見えない癌の取り残しを防ぐ意味合いがあり、同時に所属リンパ節郭清も行わます。進行胆嚢癌に対する手術術式としては比較的ポピュラーですが、解剖学的区分を無視した肝切除に異論もあります。
肝S4a5切除術は胆嚢に加え、肝臓の一部(S4a, S5)を解剖学的区分に沿って切除する術式です。胆嚢から肝へ流入する静脈はまずこの領域へ入ることから、初期の肝転移はこの領域に発生するという理論に基づいていて、微小転移が含まれる可能性が高い領域を系統的に切除することにより肝転移再発を抑制し、生存率を向上させることが狙いですが、拡大胆嚢摘出術に対する優位性は明らかではありません。
肝拡大右葉切除は胆嚢、肝外胆管に加え、肝臓の右側半分強(体積比では約7割)を切除する術式で、癌の浸潤が肝右葉の主要な動脈やグリソン鞘に及ぶ場合に行われます。その他の系統的肝切除として癌の浸潤範囲により、肝中央二区域切除術、肝右三区域切除術などが行われます。
肝膵頭十二指腸切除術は上述した各種術式に膵頭十二指腸切除を加えるもので、癌が膵臓や十二指腸に浸潤している場合に検討されます。また進行胆嚢癌に対し、膵頭周囲リンパ節の完全郭清を目的に行われることもあります。肝と膵を同時に切除するという非常に侵襲の大きい術式であり、リスクを上回るメリットがあるかどうか特に慎重に検討されなければなりません。
胆嚢がんで切除をした場合の5年生存率は42%ですが、切除できなかった場合の5年生存率は2%です。手術ができない場合は、化学療法や放射線療法、温熱療法などを行います。
化学療法として、胆嚢がんや胆管がんに対して、いくつかの抗がん薬が組み合わせて使われますが、標準的な治療法はありません。副作用として、食欲低下、吐き気、貧血、白血球減少、脱毛などが現れる場合があります。
放射線療法には、放射線を体の外から照射する体外照射法と、胆管内からがんとそのまわりだけを照射する胆管腔内照射法があります。胆道がんの放射線療法は、あまり効果が期待できないといわれていますが、がんが縮小したり、胆管の閉塞が改善されることもあります。
近年、がんで狭くなった場所に網状の金属製のチューブ(ステント)を入れて胆管腔内照射法を併用すると、生存率が延びるといわれています。副作用は、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲不振などです。
初診時に肝臓や肺などに転移を有する進行がんと診断された場合は手術適応とはなりません。また胆のうがん(胆嚢癌)は腹膜播種をきたしやすいがんですが腹膜播種は画像検査等では見つからないことも少なくなく、手術を試みて回復した時点で腹膜播種が見つかり手術が中止されるということもあります。
膵臓癌は食道癌と並んで予後の悪い癌です。膵臓癌は全癌死亡数の約6.5%を占めています。肺癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌に次いで癌死因の第5位です。
膵臓は胃の裏側にある約15cm程の細長い扁平な臓器でその右側を十二指腸が取り囲むようにあります。膵臓の右側は厚く約3cmの部分は頭部と呼ばれ、左側に行くにしたがって体部、尾部という呼び方をします。
膵臓は内分泌機能と外分泌機能を持っています。内分泌とは血糖をコントロールするインスリン、グルカゴンなどのホルモンを産生するもので外分泌はアミラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼなどを十二指腸に分泌するものです。
膵臓癌はその位置関係から早期発見が非常に難しなります。上腹部痛、背部痛、上腹部の不快感を訴える人は胃が悪いと思って胃薬を飲んでその場限りの対処をしている人がいますが、また検査をするといっても胃透視(バリウム検査)や胃内視鏡のみを行い膵臓癌を見落とすことが多いのですが当院ではほとんどの人に腹部エコー検査を施行しています。しかしエコーをしても膵臓癌を発見できないこともあります。
膵臓癌も早期発見できれば根治することが可能ですが早期では目立った症状はありませんので早期に発見することは非常に難しいと言えるでしょう。上腹部の不快感、食欲低下、黄疸、下痢、原因不明の体重減少、糖尿病と診断されたときなどには膵臓癌も念頭に置いておかなければなりません。膵頭部癌では主膵管や胆管が近くにあり、これらが狭窄したり閉塞したりすることによって症状が出やすく早期に見つかることがあります。
膵体部癌や膵尾部癌の場合は主膵管が閉塞したとしても膵炎を起こす範囲が少なく胆管から膵臓癌はいくつかの種類がありますが、病期の決め方には日本膵臓学会の膵癌取り扱い規約と米国やEU諸国を中心に国際的に使われているUICC分類があります。これらは腹部エコー、CT、MRI、シンチといった画像診断でなされます。
Ⅰ期--膵臓癌の大きさが2cm以下で 膵臓の内部に限局しておりリンパ節転移がない。
Ⅱ期--大きさが2cm以下で膵臓の内部に限局しているが第1群のリンパ節転移がある。または大きさが2cm以上あるが癌は膵臓の内部のとどまっており、リンパ節転移がない。
Ⅲ期--大きさが2cm以下で膵臓の内部に限局しているが第2群のリンパ節転移がある。または大きさが2cm以上あるが癌は膵臓の内部にとどまっており第1群のリンパ節転移がある。または、癌は膵臓の外へ少し出ているがリンパ節転移はないか第1群までに限られている。
Ⅳa期-膵癌は膵臓の外へ少し出ており第2群のリンパ節転移がある。または癌が膵臓周囲の血管に及んでいるがリンパ節転移はないか第1群にまでに限られている。
Ⅳb期-癌が膵臓周囲の血管に及んでおり第2群のリンパ節転移がある。または第3群のリンパ節転移があるか、離れた臓器に転移がある。
Ⅰ期--膵臓癌が膵臓の内部にとどまっておりリンパ節転移はない。
Ⅱ期--膵臓癌は膵臓の周りに及んでいるが膵臓周囲の重要な血管には及ばずリンパ節転移はないか第1群までに限られている。
Ⅲ期--癌が膵臓周囲の重要な血管に及んでいるが離れた臓器には転移がない。
Ⅳ期--膵臓から離れたところに転移がある。
膵臓癌の治療法としては外科手術、放射線治療、化学療法の3つがありますが手術では膵頭部に癌がある場合は膵臓頭部から体部の一部にかけて十二指腸、小腸の一部、胆嚢、胆管及び場合により胃の一部を切除する膵頭十二指腸切除術を行います。最近では胃を温存する全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を行うようになっています。膵尾部に癌がある場合は膵臓の体部、尾部と脾臓を摘出する膵体尾部切除術を行います。また十二指腸が膵頭部癌で閉塞した場合は胃と空腸を吻合して食事が通るようにします。
もちろん根治術ではありません。また化学療法、放射線療法も行われますがその成績は満足できるものではありません。Ⅳ期の癌では疼痛のコントロールを行う治療だけになることもあります。も離れているために症状が出にくく発見が遅れることがあります。
また超音波検査でも観察が充分に出来ないところですのでどうしても早期癌は見つかりにくいのです。進行すると腹痛や頑固な背部痛が出現し血中膵酵素はむしろ低下します。主膵管の閉塞は膵外分泌機能を低下させ脂肪の吸収を障害して下痢、腹痛、体重減少などが生じるのです。
膵癌の診断には超音波検査が最も用いられますが小さな早期癌の診断は困難です。血液検査では膵炎は診断できますが、膵癌はかなり進行したものでないと分かりません。CTでは低濃度で不正形の腫瘍が描出されますが造影検査をした法がはっきり分かります。MRIではCTと同様の所見が診られますがMRCPといわれる膵管や胆管を描出する方法で膵管の狭窄や途絶がみられます。最近では胃内視鏡の先端に超音波診断装置をつけた超音波なし今日(EUS))が診断能力を高めています。ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵造影endoscopic retrograde cholangio-pancratography)は内視鏡で膵乳頭(ファーたー乳頭)から胆管と膵管を造営する方法ですが膵炎をきたすことがあります。
アルコールを飲むのが多くなる季節となりました。肝臓にとってアルコールは、処理が義務づけられている薬物の1つです。このため、アルコールが体内に入ってくると肝臓は、アルコールがゼロになるまで代謝し、分解し続けます。アルコールを代謝・分解する際には、さまざまな要因が加わって、栄養素を代謝するときとは異なる働きや形の変化が、肝臓を構成する細胞(肝細胞、類洞壁細胞)におこります。この変化は一過性のもので、アルコールがゼロになれば正常な状態にもどるのですが、大量のアルコールを飲むほど、長時間、肝臓の細胞の変化が続くことになります。
毎日、大量のアルコールを飲み続けると、アルコールを分解する酵素の働きが活発になり、より多量のアルコールを飲めるようになります。その結果、肝臓の細胞の変化が恒常的に続くようになり、ついには、肝細胞の変性・壊死と、細胞間質細胞の線維化がおこり、肝臓のはたらきが衰えてきます。これがアルコール性肝障害で、おもにアルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変の4つの状態があります。
アセトアルデヒドを処理できない人(アルデヒド脱水素酵素2型欠損者)は、お酒を飲めないので、通常、アルコール性肝障害になることはありません。しかし、なかには、少量であればアルコールを飲める人がいます。これは、アルデヒド脱水素酵素2型の部分的欠損者です。こういう人が常習飲酒者になると、アルデヒド脱水素酵素2型を完全にもつ人よりも、より少ない量で、アルコール性肝障害が発症してきます。
中性脂肪(トリグリセリド)が、肝細胞内に蓄積した状態です。原因は肝臓が、アルコールの処理を優先して脂肪の代謝を後回しにするために、代謝されない脂肪が肝細胞にたまるためです。症状のないことが多く、検査での高脂血症の存在、γ‐GTPやGOT上昇などで発見されることが多いものです。
右上腹部鈍痛、食欲不振や吐き気がみられることもあります。確定診断は、生検で肝細胞への脂肪の沈着を証明することですが、腹部の超音波検査やCTでも脂肪肝が見つかり、診断できます。治療は禁酒を守れば脂肪の代謝が改善され、完治します。
常習の飲酒によって類洞壁細胞の1つが活性化して線維が増殖してきた状態です。日本ではこの状態を示すアルコール性肝障害が多くなっています。治療としては禁酒によって病気の進行を阻止することができます。高たんぱく・高ビタミンの食事療法と肝庇護剤(パンテチン、グルタチオンなど)の服用が必要なこともあります。
肝細胞の変性・壊死に炎症性の変化をともなっている状態です。症状の軽い人から劇症肝炎のような重い症状を示す人までさまざまです。多くの場合大量飲酒が連続したときに発症し、入院を必要とします。全身倦怠感、食欲不振、吐き気・嘔吐、黄疸、肝臓の腫れなどの急性肝炎に似た症状のほか、発熱などの炎症症状、腹痛・下痢などの消化器症状をともないます。
重症になると、ひどい全身倦怠感・吐き気・嘔吐、吐血、意識障害、高度の黄疸、出血傾向、腹水などが現われます。劇症肝炎のような経過をとって、1か月以内に死亡することもあります。血液検査を行なうと、白血球の増加がみられ、血小板が減少し、ビリルビンが高値を呈します。またGOTが高く、GPTの上昇は比較的軽度である傾向を示します。出血傾向がみられ、プロトロンビン時間が延長します。
重症例では急性腎不全(肝腎症候群)をともなうこともしばしばです。禁酒を行なったうえで、安静を保ち、輸液で脱水と電解質異常を改善します。劇症肝炎の状態では、副腎皮質ホルモン薬の使用、グルカゴン・インスリン療法、血漿交換などが必要になります。多くの場合、治癒後もアルコール依存症の治療が必要となります。
過度の飲酒が原因でおこった肝臓病の終末像です。男性は日本酒換算5合以上20年で、女性は3~5合以上約10年で肝硬変になる危険性があります。女性は、男性に比べると、少量で、しかも短い飲酒期間でおこってきます。
大酒家の肝硬変の約半数に肝炎ウイルス、とくにC型肝炎ウイルスの持続感染の合併がみられます。この場合、アルコールだけが原因でおこった肝硬変よりも肝がん発生の危険率が高くなります。禁酒を守り、ほかの肝硬変と同じように治療します。
大腸ポリープの増加は、食生活の欧米化により動物性脂肪や糖分の摂りすぎ、そして食物繊維の摂取が少なくなり、大腸への負担が大きくなったことと密接な関わりがあるとされています。また、排便時の硬い便の刺激がさまざまな刺激となり、ポリープを発生させる原因になると考えられています。
しかし、はっきりした原因はまだ解明されていないので、定期的に健診を受け早期に発見することが重要です。
大腸にできるポリープのおよそ80%は、腺腫といわれるがんになりやすいポリープです。この点が胃ポリープと大きく違う点です。ポリープには、茸状に根元がくびれた有茎性ポリープと、全体が盛り上がった広基性ポリープとがありますが、有茎性ポリープは一般に良性のものが多く、広基性ポリープ(とくに2cm以上のもの)は、腺腫性のものが多く、がんになりやすいといわれています。
大腸ポリープは、直腸に最も多く、次に直腸に近いS状結腸に多く発生します。年齢的には40歳以降に多くみられ、高齢になるほど増える傾向にあります。ポリープが小さいうちにはほとんど無症状ですが、大きくなるにつれて、腸の内容物がポリープの表面を刺激するため、傷ついて出血し便に血が混じったり腹痛を感じることもあります。
しかし、わずかな出血の場合には肉眼では気がつかないことも少なくありません。また、一度に100個を超えるたくさんのポリープが発生することがあります。この状態をポリポージスといいますが、放置すれば100%がん化します。
大腸ポリープを防ぐ生活習慣として①食物繊維を豊富に含む、野菜、いも類、穀類、茸類、海草類などを積極的に摂る、②主食はなるべくご飯にする、③動物性の高脂肪・高たんぱくの食物を避ける、④1日3回決まった時間に食事をする、⑤禁煙する、⑥お酒は適量を守る、⑦規則正しい排便習慣を身につけ、便意を我慢しない、⑧生活リズムを整え、毎日適度な運動をするなどです。
大腸ポリープは自覚症状がほとんど症状がないため定期的な「免疫便潜血反応検査(2日法)」がとても重要です。便潜血反応検査で(+)と出た場合には、大腸X線検査や大腸内視鏡検査が行われます。ポリープがあれば、内視鏡でポリープ全体か部分を採取して、組織検査を行い、良性か悪性かを診断します。
大腸ポリープは胃ポリープと同様に分類されています。胃ポリープと違い大きなものは癌になる可能性が非常に高くなります。また腺腫は、ある期間同じ大きさにとどまり、ある時期から大きくなり始め、またその大きさにとどまるというように段階的に増大していき、一直線に大きくなることはないようです。その理由はよくわかっていませんが、遺伝子の変異とも関係しているのではないかと考えられています。
よく知られているように、がんはがん遺伝子やがん抑制遺伝子など、複数の遺伝子の異常が積み重なって起る病気です。遺伝子が傷ついて変異を起こすにつれて、正常の組織から腺腫、さらにがんへと進展していくと考えられています。おそらく、腺腫の段階的な増大も、こうした遺伝子の変異と大きく関係しているのではないかと思われるのです。つまり、ひとつの遺伝子が傷つくと増大のスピードが増し、また次の遺伝子が傷つくと次の増大が起るという具合です。
大腸癌検診の最もポピュラーなのが便潜血検査です。一日7cc程度以上の出血が、口から肛門までの食物の通り道のどこかにあれば陽性になります。不確実でかつ、場所、疾患の特定も無論できません。検査は複数回で精度が上がります。ガンからみると、1回の検査で陽性となる確率は6割、2回のうち1回が陽性なる確率は8割、3回のうち1回が陽性になる確率は9割を越えます。逆に言うと、1回の検査ではたとえガンでも陰性になる確率が4割もあるということです。普通検診では、2回分の検査が実施されています。絶対安心できる検査ではない、ということを肝に銘じて下さい。
大腸ポリープの腺腫は前がん状態であるとみなし、すべての腺腫が発見され次第、摘出されていました。しかし、現在では腺腫でも、がん化の危険度の高いものにしぼって選択的に摘出するという考えに変わってきています。そこで、日本では5mm以上の大きさのポリープが摘出の対象とされています。5mm未満のポリープは経過観察でよいと考えられていますが、科学的な根拠はありません。したがって、平坦型で陥凹のあるものや、形がいびつであるなど特殊なタイプのものは、5mm未満でも発見され次第、摘出されます。
一方で、発見したポリープは全て摘除するという考え方もあります。理由は発見したポリープが「がんになる、ならない」ということのみならず、「小さなポリープをすべて取り除いた後は大腸内視鏡を毎年受けなくてもよいのではないか」という考え方に基づいています。大腸ポリープの分類は突出しているか、茎があるかなどによって図のようにⅠ型(Ⅰp、Ⅰsp、Ⅰp)、Ⅱ型(Ⅱa、Ⅱb、Ⅱc)等に分類されます。ポリープの切除法は胃ポリープの場合と基本的には変わりありません。 すなわち平坦なものは図のように生理食塩液などを病変の下に注入した後に切除します。これにはスネア(輪っか)を使う場合と内視鏡メスを使用する場合(ESD)があります。
大腸がんの中には親から子どもへと、高い確率で大腸がんのできやすい体質が受け継がれるものがあります。これが、遺伝性の大腸がんです。その代表が、家族性大腸腺腫症(大腸腺腫性ポリポーシス・FAP)と遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC)です。ポリポーシスとはポリープがたくさん(多い場合で100個以上)できた状態のことです。家族性大腸腺腫症は10代で腺腫が発生すると考えられています。
両親のどちらかがこの病気にかかっていた場合は、早目に内視鏡検査を受けたほうがよいでしょう。遺伝性非ポリポーシス大腸がんは遺伝子の異常を修復する遺伝子に問題が生じていることが原因と言われています。3人以上の血縁者が大腸がんなどのがんにかかっていて、そのうちの1人が50歳未満で大腸がんと診断されている場合はこの病気が疑われます。
しかし、家族性大腸腺腫症も遺伝性非ポリポーシス大腸がんも、人に感染する病気ではありません。また、両親のいずれかにこの病気があっても原因遺伝子を受け継いでいるとは限りませんし、受け継いでいたとしても必ず大腸がんになるというわけではありません。
一般の人は神経質になることはありませんが、便潜血は最低1年に1回は便を2日分以上調べる事と、何か便通異常や腹部症状がある際に大腸検査を積極的に受ける必要があります。ただ胃内視鏡検査と違って前日から下剤を服用し当日は2リットルもの薬を飲まなければならないのが欠点です。しかしこの点は人間の腸の長さを考えると他には方法はないようです。たとえばカプセル内視鏡で小腸を調べる際にも同様の処置をしておかなければ腸の中はよく見えません。
B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)が血液・体液を介して感染して起きる肝臓の病気です。HBVは感染した時期、感染したときの健康状態によって、一過性の感染に終わるもの(一過性感染)とほぼ生涯にわたり感染が継続するもの(持続感染)とに大別されます。思春期以降にHBVに感染すると、多くの場合一過性感染で終わります。
感染の原因のほとんどはHBV慢性感染者との性的接触によるものと考えられており、この他、十分に消毒していない器具を使った医療行為、入れ墨、ピアスの穴開け、カミソリや歯ブラシの共用、麻薬・覚醒剤使用時の注射器の回しうちの際、HBV持続感染者の血液が付着したままで次の人が使用すると感染の可能性があります。
HBV感染後、一過性の急性肝炎を起こすことがしばしばありますが、その後大部分の人ではHBVは排除され、慢性化しません。またHBVに感染しながらも、急性肝炎の症状が出現せず、気づかないうちにHBVが排除される人も少なくありません。一方HBVが慢性感染している人の大部分は、母親がHBVの持続感染者で、出産時に産道出血によりHBVが新生児の体内に侵入することにより感染します(母児感染)。その他乳幼児期に医療行為、口移しの食事、傷口からの出血など何らかの理由で、HBVの持続感染者の血液・体液が体内に侵入すると、持続的な感染を起こします。
また成人であっても、体の抵抗力(免疫力)が低下するような、免疫抑制剤使用中、抗癌剤治療中、後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の人たちは、HBV感染後、自分の力ではHBVが排除できずに持続感染を起こすことがあります。また従来は健康な人に発症した急性B型肝炎は慢性化しないといわれてきましたが、近年ジェノタイプA型と呼ばれる、欧米型やアジア・アフリカ型といった外来種のHBVに感染すると比較的高率に慢性化を起こすことも知られています。
B型急性肝炎は、HBVに感染してから1-6ヶ月の潜伏期間を経て、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、褐色尿、黄疸などが出現します。尿の色は濃いウーロン茶様であり、黄疸はまず目の白目の部分が黄色くなり、その後皮膚も黄色みを帯びてきます。
一方、B型慢性肝炎では、一般に急性肝炎でみられる症状は出現しにくく、自覚症状はほとんどありません。しかしB型慢性肝炎では、しばしば「急性増悪」と呼ばれる一過性の強い肝障害を起こることがあります。この際には急性肝炎と同様に、全身倦怠感、食欲不振、褐色尿、黄疸が出現することがあります。
B型急性肝炎になると上記の症状が出現しますが、一般に数週間で肝炎は極期を過ぎ、回復過程に入ります。発症時には後述のHBs抗原、HBe抗原が陽性ですが、1-2ヶ月でHBs抗原、HBe抗原は陰性化し、その後HBe抗体、HBs抗体が順次出現します。
一方B型慢性肝炎は母児感染でHBVに感染した人などの持続感染者に起こりますが、出生後数年〜十数年間は肝炎は発症せず、HBVは排除されずに患者さんの体内で共存しています。ところが思春期を過ぎると自己の免疫力が発達し、もともと生まれたときから体内に存在したHBVを病原菌であると認識できるようになり、白血球(リンパ球)がHBVを体内から排除しようと攻撃を始めます。この時リンパ球がHBVの感染した肝細胞も一緒に壊してしまうので肝炎が起こり始めます。
一般に10-30才代に一過性に強い肝炎を起こし、HBVはHBe抗原陽性の増殖性の高いウイルスからHBe抗体陽性の比較的おとなしいウイルスに変化します。HBe抗体陽性となった後は、多くの場合そのまま生涯強い肝炎を発症しません。このように思春期以降一過性の肝炎を起こした後はそのまま一生肝機能が安定したままの人がおよそ80-90%、残りの10-20%の人は慢性肝炎へと移行し、その中から肝硬変、肝臓癌になる人も出てきます。
B型肝炎のウイルス検査には以下のものがあります。
①HBs抗原:HBVの感染を調べるには、まずHBs抗原の血液検査を行います。HBs抗原が陽性なら、100%HBVに感染していると考えられます。逆にHBs抗原が陰性なら、ほとんどの場合、HBVに感染していないと考えて差し支えありません。
②HBe抗原、HBe抗体:HBs抗原陽性ならば、次にHBe抗原、HBe抗体を調べます。一般にHBe抗原陽性、HBe抗体陰性の場合は、HBVの増殖力が強く、肝炎の程度が強く、他の人への感染の可能性が高いと考えられます。一方でHBe抗原陰性、HBe抗体陽性の場合は、HBVの増殖力が弱く、肝炎は沈静化し、他の人への感染の可能性が低いことが多いのですが、これには例外がしばしばあります。仮にHBe抗体陽性であっても、肝炎が徐々に進行して肝硬変になったり、あるいは肝炎が進行しなくても肝臓癌になることがあるので厳重な注意が必要です。
③HBs抗体:B型急性肝炎を発症して治癒した人、あるいはB型肝炎ワクチンを接種した人はHBs抗体が陽性となります。HBs抗体が陽性の人は、仮にHBVが体内に入ってきても、ウイルスは排除され、肝炎を発症することはありません。HBs抗体はいわゆる中和抗体として働きます。
④HBVDNA:HBVのウイルス量を具体的に数値化したものがHBVDNAであり、特にインターフェロン(IFN)治療や抗ウイルス薬を使用し、その治療効果を見るときに有用です。通常HBVDNA値は対数表示され、ウイルス量が「6.0」と表示されればHBVが106個いることになります。HBVが「7.0」から「5.0」に減った場合は107個から105個にすなわちHBV量が1/100になったことを意味します。ウイルス量が少なくなると「1.8未満」「検出せず」などと、非常に低い値で表示されますが、仮に血中ウイルス量が「1.8未満」「検出せず」となっても、多くの場合HBVは肝臓内に存在し、決してウイルスが消失したわけではないので、この点を忘れてはいけません。
肝機能を調べる検査としては以下のものがあります
①AST(GOT)/ALT (GPT):肝炎を発症しているかどうか、また生じた肝炎の程度を調べるには、AST (GOT)/ALT (GPT)の血液検査を行います。正常値は施設によって異なりますが、40-50 IU/ml未満。急性肝炎、慢性肝炎の時AST/ALTは異常高値となります。AST/ALT値が高ければ高いほど、肝炎の程度は強いと言えます。AST/ALTの異常高値が長期間続くと 慢性肝炎から肝硬変へと進行します。一般にAST/ALTの数値が高ければ高いほど、肝炎を患った期間が長ければ長いほど、肝硬変になりやすいといわれていますが、B型慢性肝炎の患者さんは、20代の頃から、時に激しい急性増悪を繰り返しているため、比較的若い30-40才代で肝硬変が完成していることが少なくありません。
②血清ビリルビン値:急性肝炎あるいは肝硬変で肝臓の機能が著しく低下すると、黄疸が出現します。この黄疸の程度の指標になるのが、血清ビリルビン値です。正常値は1-1.5mg/dl以下で3.0mg/dl以上になると眼球結膜あるいは皮膚が黄色くなる「黄疸」が出現し始めます。
また肝炎の進展の程度を知るために、特に慢性肝炎や肝硬変の人に対して肝臓の組織の一部を腹腔鏡あるいは腹部超音波装置を用いて採取することを肝生検といいます。特殊な染色を行い、顕微鏡で肝臓の組織を詳しく調べます。肝生検によって慢性肝炎か肝硬変か、慢性肝炎の程度は軽度か進行しているか、などが分かります。
慢性B型肝炎患者の人に持続感染しているHBVは基本的に完全排除することは出来ません。慢性C型肝炎の場合にはHCVに対するIFN療法、あるいは直接作用型抗ウイルス薬の内服治療により、かなり高率にウイルスの完全排除が期待できますが、HBVに対してはIFNを用いても、後述の核酸アナログ製剤を用いてもウイルスの完全排除は期待できません。これがHBVに対する治療とHCVに対する治療の根本的な違いです。
慢性B型肝炎の治療の目的は、慢性肝炎の沈静化(ALTの正常化)と、その後の肝硬変への移行・肝細胞癌発症の阻止にあります。急性B型肝炎は基本的に保存的加療がなされます。抗ウイルス治療はB型肝炎ウイルスを排除する治療です。B型肝炎ウイルスは自然経過において排除抗体(HBs抗体ないしHBe抗体)を取得し、ウイルスの活性化が沈静化していき、これを「セロコンバージョン(seroconversion)」と呼ばびますが、抗ウイルス治療はこれを促していくことを目標としていきます。治療適応は「HBe抗原陽性無症候性キャリア」・「慢性B型肝炎」・「B型肝硬変」です。
抗ウイルス治療は、インターフェロン(IFN)と、核酸アナログ製剤で行われます。核酸アナログ製剤は一度開始すると終生継続していく必要性があることと、まれに耐性ウイルスが出現することも多く、それによる急性肝炎(breack through hepatitis)が発生することも少なくありません。核酸アナログ製剤としては以下のものがあります。
①ラミブジン Lamivudine(ゼフィックス Zefix®):LAM 元々HIV治療薬として開発されました。耐性ウイルス出現が多く、近年は新規使用には用いられていません。
②アデフォビル Adefovir(ヘプセラ Hepsera®):ADFラミブジン耐性のウイルス治療薬として承認されました。ラミブジン耐性ウイルス出現時にラミブジンと併用で用いられました。
③エンテカビル Entecavir(バラクルード Bareclude®):ETV ラミブジンよりウイルス抑制作用が強力で、現在はほぼ核酸アナログ製剤として第一選択で用いられています。催奇形性があり、妊娠の可能性がある女性には投与できません。
④テノホビル Tenofovir(テノゼット®):TDF 核酸アナログ製剤の次世代薬。元々は抗HIV薬(ビリアード®)として使用されており、日本・海外で広く認可されています。催奇形性が低いとされています。
他にテルビブジン Telbivudine:LdT(Sebivo® Tyzeka®)やクレブジン Clevudine(Revoivir®)があります。
基本的に年齢によって治療選択されます。35歳未満では免疫応答によるセロコンバージョンが期待され、免疫賦活作用もあるIFN治療が選択されます。ウイルス量が多い場合、肝炎が進行した人には核酸アナログ製剤との併用療法が行われます。35歳以上ではセロコンバージョンの可能性が低く、核酸アナログ療法によるウイルス抑制治療が選択されます。ウイルス量が多い場合、IFNとの併用療法が行われます。また、挙児希望の場合はIFNまたはTDF投与が行われます。
IFN療法は自然経過でHBe抗原陽性がHBe抗体陽性にならずに、慢性肝炎の状態にある比較的若年者が治療の対象になります。IFNによって自己の免疫の力を強めて、激しい肝炎を起こしやすいHBe抗原陽性のHBVを、比較的おとなしいHBe抗体陽性のHBVに変えることが治療の主な目的です。B型慢性肝炎に対するIFN治療は、これまではHBe抗原陽性の場合に限って、従来型IFN製剤の週3回24週間投与が保険承認されていましたが、2011年に認可されたペグインターフェロンα2a製剤では、HBe抗原の有無にかかわらず週1回48週間投与が推奨されています。IFN療法が奏功すればIFN投与を中止してからも、そのままHBVは増殖せず肝炎は沈静化します。
しかしIFNが効かずにHBe抗原が陰性化しない症例、IFNを中止するとHBVが再度増えて肝炎が再燃する症例も多く、IFN療法の奏功率は30-40%です。IFN療法を行うと開始当初に38度を超える発熱・全身倦怠感・関節痛・筋肉痛は必発です。但しこれらの副作用はIFNを継続して投与していくと徐々に落ち着き、数週後には多くの人では出現しなくなります。また白血球、赤血球、血小板の低下が起こります。これはIFNが血球を作る骨髄の働きを抑えるためです。
糖尿病の人、また膠原病の人は、症状が増悪することがあります。時に間質性肺炎になる人もいます。またIFN治療中に時にうつ病になる人がいます。うつ病がひどくなると自殺する場合があります。うつ傾向が出てきたら、すぐにIFNを中止する必要があります。
また眼底出血、脱毛、タンパク尿などが出現することがあります。核酸アナログ製剤は、直接薬の力でHBVの増殖を抑えて肝炎を沈静化させます。薬を飲んでいる間はHBVのウイルス量は低下し、肝炎は起こりません。しかしIFNと異なり、薬を中止するとほとんどの症例で肝炎は再燃します。一旦内服を開始してから勝手に核酸アナログ製剤を自己中止しますと、時に肝炎の急性増悪を起こし、最悪の場合肝不全で死に至る場合があります。絶対に核酸アナログ製剤を自己中止してはいけません。
2015年9月1日、抗ウイルス薬レジパスビル/ソホスブビル(商品名ハーボニー配合錠)が発売されました。適応は「セログループ1(ジェノタイプ1)のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」で、1日1回1錠を12週間経口投与するものです。
日本は、C型肝炎ウイルス(HCV)を主原因とする肝臓癌の発生率が最も高い国の一つと言われており、日本におけるHCVの推定持続感染者数は190万~230万人で、うちジェノタイプ1は約7割を占めると報告されています。
C型慢性肝炎の治療としては、これまでインターフェロン製剤とリバビリン(商品名コペガス、レベトール他)の併用療法などが実施されていましたが、近年、持続的ウイルス陰性化(SVR)率を向上させたテラプレビル(商品名テラビック)やシメプレビル(商品名ソブリアード)などの直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)が登場し、使用されています。
2015年5月には、インターフェロン製剤を使用せずリバビリンと併用した経口製剤のみで治療が可能となった日本初のDAAsであるソホスブビル(商品名ソバルディ)が発売されました。ソホスブビルは、ヌクレオチドプロドラッグとして肝細胞内で活性代謝物に変換されます。その活性代謝物のウリジン3リン酸型は、HCVの複製に関わる非構造タンパク質5B (NS5B)RNA依存性RNAポリメラーゼを阻害し、HCVの増殖を抑制します。
今回発売されたハーボニーは、1錠中にソホスブビル400mgとレジパスビル90mgを含有した、HCV RNA合成を阻害するDAAsの配合製剤です。インターフェロン製剤やリバビリンとの併用を必要としない特徴を有しています。レジパスビルは、HCVの複製およびHCV粒子の形成に必須の、非構造タンパク質5A(NS5A)を標的とする薬剤です。
レジパスビルと同じNS5Aを標的とするDAAsとしては、2014年9月よりNS5A複製複合体阻害薬ダクラタスビル(商品名ダクルインザ)が臨床使用されています。In vitroでソホスブビルとレジパスビルとの併用は、HCVに対して相加的な抗ウイルス作用を示し、交差耐性も認められなかったことが確認されました。このことを踏まえて、配合剤であるハーボニーの国内外第3相臨床試験が実施された結果、SVR12率(投与終了から12週間後のHCV RNAが定量下限値未満の割合)100%を達成しています。
海外では、2015年7月現在、欧米をはじめとする40カ国で承認されています。国内第3相臨床試験から、副作用が21.7%認められており、主な副作用は、そう痒感(3.2%)、悪心・口内炎(各2.5%)などでした。なお、ハーボニーの薬価は1錠8万171.30円。新薬は通常14日分を限度とする投薬期間の制限がありますが、本薬はソホスブビルと同様、例外措置として28日分の処方が認められており、保険適用、医療費助成制度が適用できます。
経口新薬ハーボニー(ソフォスブビル+レディパスビル合剤)は、 著効率は95~100%と極めて高く、期待の新薬です。なお、適用にあたっては、腎臓病や不整脈などの持病をお持ちの方は、留意が必要です。また併用禁忌薬や要注意薬もありますので、留意が必要です。アッヴィ 社の「ヴキラックス」(バリタブレビル/リトナビル+オムビタスビル)が、2015年12月26日に発売になりましたので、腎臓病の方には、「ハーボニー」よりも、「ヴィキラックス」を選択することが適切かもしれません。
C型肝炎ジェノタイプ1型患者の場合、「インターフェロン3剤併用治療か?」、「経口新薬ダクルインザ・スンベプラ(ダクラ・アスナ)か?」、「今年承認された経口新薬ハーボニー(ソフォスブ・レディパス)か? 更にはヴィキラックス(バリタブレビル/リトナビル+オムビタスビル)か?」が問題になります。まずインターフェロン治療が可能な患者の場合は、シメプレビル・インターフェロン3剤治療法、又はバニプレビル・インターフェロン3剤治療法は選択肢の一つです。
初回治療の患者及び前回ペグ・リバ治療で再燃の患者にはシメプレビル又はバニプレビル3剤治療の著効率は約90%です。ペグ・リバ治療より著効率は高いですが、副作用はペグ・リバ治療と同等です。副作用が忍容できそうであれば、この療法は適用できます(血球、ヘモグロビン、血小板などの忍容性は医師により、自覚症状については耐えられるかどうかは患者個人の判断で決めることになります)。過去の治療で無効であった患者には、著効率が低いので、専門医と相談して以下治療法の中から適切な治療法を選択してください。
飲み薬のみの経口新薬ダクラ・アスナは2014年 9月から一般に治療が実施されています。医療費助成制度も適用できます。過去の治療歴、インターフェロン治療の前歴にかかわらず2015年3月20日より適用可能となりました。著効率は80%~90%が期待されていますが、特定の遺伝子変異のあるウイルスでは、著効率が30~40%程度に留まると言われており、著効に至らなかった患者は、その後の治療薬の選択が難しくなる可能性が指摘されています。副作用としてALTが上昇することがあります(ALTの上昇程度によっては、専門医の特別対応が必要です)。
患者個人の詳細な遺伝子検査を受け、専門医の診断により、シメプレビル3剤治療か、経口2剤新薬・ダクラタスビル+アスナプレビルのどちらかを選択すべきでしょう。(前回インターフェロン治療無効者は、シメプレビル3剤治療の著効率は40~50%程度で、他に比べ高いとは云えません。しかし、この経口2剤治療の場合は、ウイルス遺伝子検査で、効きやすいのであれば、80~85%の著効率ですが、特定のウイルス遺伝子変異があり、効きにくい患者は30~40%程度になると云われています。
経口新薬ハーボニー(ソフォスブビル+レディパスビル合剤)は、前述のように、2015年8月31日から保険適用、医療費助成制度で適用できます。著効率は95~100%と極めて高く、期待の新薬です。今までの治療の選択が難しかった患者には、朗報です。適用にあたっては、腎臓病や不整脈などの持病をお持ちの方は、留意が必要ですので、よくご相談ください。又、併用禁忌薬や要注意薬もありますので、留意が必要です。
腎臓病の方には、ハーボニーよりも、ヴィキラックスを選択することが適切かもしれません。非代償性肝硬変、併発疾患などの事情で、上記の治療法がすべて選択できない場合は、当面、少量長期インターフェロン治療や肝庇護療法(強力ミノファーゲンC注射・ウルソ服用・瀉血等)で肝炎を抑えながら次の新薬を待つこととなります。今後、 非代償性肝硬変への適用を検討する治験が行われると言われています。
新薬の出現でガイドラインが新たに作られました。従来の治療は低ウイルス量の場合、ペグインターフェロン単独24~48週(又は、インターフェロン単独24週)の投与をおこなうことでした。この療法の著効率は90%といわれています。高ウイルス量の場合は、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法24週(又は、インターフェロンβ+リバビリン併用療法24週)行う場合があります。リバビリンが使えない人には、ペグインターフェロン単独24週~48週治療も行われます。この療法で著効率は80%以上といわれています。
上記の治療でも、再燃した方には、テラプレビル+ペグインターフェロン+リバビリンも選択できますが、湿疹などの副作用が厳しいので、飲み薬のみの新薬ソバルディ+リバビリンを選択することをお勧めします。ソバルディ(ソフォスブビル)+リバビリンの経口新薬が2015年5月25日に発売になりました。著効率は、治験では96%です。ジェノタイプ2型の方も、保険でインターフェロンフリーの経口新薬が使えるようになり、医療費助成も適用可能となりました。
過敏性腸症候群とは腸の検査や血液検査で明らかな異常が認められないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感を伴って、便秘や下痢が長く続く病気です。以前は過敏性大腸といわれていましたが、小腸を含めた腸全体に機能異常があることがわかってきたため、過敏性腸症候群と呼ばれるようになりました。
この病気は、日本を含む先進国に多い病気です。日本人では10〜15%に認められ、消化器科を受診する人の3分の1を占めるほど、頻度の高い病気です。発症年齢は20〜40代に多く、男女比は1対1.6で、やや女性に多くみられます。便通の状態により、便秘型、下痢型、交代型の3つに分類されますが、男性では下痢型、女性では便秘型が目立ちます。
腸の粘膜に炎症やポリープ・腫瘍など器質的病変がなく、ただ腸の働きが強くなりすぎることによって腹痛や便通異常(便秘、下痢、便秘・下痢を繰り返す交替型)などといった症状が現れる病気です。つまり、腸自体が悪いのではなく、それ以外の何らかの原因で腸を動かす神経が刺激されるために、腸の運動が盛んになり腹痛などが起こるのです。
腹痛は腸のけいれんによるもので、とくに左の下腹部に多いようですが一定はしていません。腹痛の性状は、発作的に起こる疝痛(さし込むような痛み)、または持続性の鈍痛のいずれかで、便意を伴っていることが多く、排便後に一時的に軽快する傾向を示します。
一般的に、食事によって症状が誘発され、睡眠中は症状がないという特徴があります。その他、胃や腸内にガスが異常にたまって腹部膨満感、げっぷが出たり、腹鳴(おなかがごろごろ鳴る)、放屁などのガス症状も比較的多くみられます。腸の内容物の移動が速い場合には下痢になり、反対に腸のけいれんのために内容物の移動が妨げられると便秘になります。
下痢型では大腸全体は細かくけいれんして筒状になっており、胃・粘膜反射が起こると急速に腸内容物が移動し、S状結腸(直腸の手前)で保持できずに下痢になります。糞便は少量ずつで何度ももよおします。一方、便秘型ではS状結腸の運動が亢進しており(けいれん性便秘)、腸内容物の移動が妨げられます。糞便はウサギの糞のようなころころした兎糞状を示します。
消化器症状以外に全身症状としては精神神経症状(頭痛、抑うつ、不安感・不眠・無気力・緊張感・全身倦怠感など)が必ずといっていいほど伴っています。自律神経失調症として胸がドキドキする・手足が冷たい・発汗・顔面紅潮・肩こり・頭痛などがあります。この病気は、最近増加傾向にあり、働きざかりの青・実年層に多いようです。主にデスクワークをする人や、また農村よりも都会のほうに多くみられるという報告もあります。
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome, 通称:IBS)は、主として大腸の運動および分泌機能の異常で起こる病気の総称です。検査をしても炎症や潰瘍など目に見える異常が認められないにもかかわらず、下痢や便秘、ガス過多による下腹部の張りなどの症状が起こるものです。したがって、まず、症状を引き起こすような器質的変化がないことを確かめなければいけません。
それには胃透視・注腸検査・胃・大腸内視鏡・腹部超音波検査・腹部CT検査などを行います。これらの検査で異常がなければ特徴的な症状(腹痛、便通異常など)を確認し、要因となる自律神経失調症や精神神経症状の有無、精神的ストレスの関与を問診などで確認して診断します。注腸検査や大腸内視鏡検査で大腸の働きが活発化していることを確かめる場合もあります。他に大腸の内部の圧を測定したり、性格・心理テストを行って診断の決め手とすることもあります。
原因として腸の運動を司る自律神経に異常があったり、精神的不安や過度の緊張などを原因とするストレスなどが引き金となる場合があります。また、元々神経質な性格であったり自律神経系が不安定であったりする人が、暴飲暴食やアルコールの多量摂取などを行ったり、不規則不摂生な生活、過労や体の冷えなどの状態に置かれた場合に症状が発生する場合があります。
また、最初は身体的理由(暴飲暴食など)が原因で下痢をしたものが、それにより人前で恥をかくという経験を幾度か重ねるうち、学習効果により人前で下痢をすること自体に異常に恐怖心を持ってしまい、長時間トイレのない場所や人目に触れずにトイレに入れないような場所に行くと不安障害の一種として下痢をするようになることもあります。これはちょうど、乗り物酔いしやすい人が、乗り物酔いを何度か経験するうちに「また乗り物酔いするのではないか」という予期不安によって、乗り物に乗る前から、意識がそれに集中してしまい、酔いやすい状態(あるいは酔った状態)になるという、いわゆる「酔うと思うから酔う」現象に似ているともいえます。パニック障害などとほぼ同じ原理です。
近年、過敏性腸症候群(IBS)にはセロトニンという神経伝達物質が関係していることが指摘されており、セロトニンは、その約90%が腸内にあります。ストレスによって腸のセロトニンが分泌されると、腸のぜん動運動に問題が生じ、IBSの症状が現れるとされていいます。
この症状は精神的なストレス、生活の乱れによって引き起こされることが多いため、症状を改善するにはこれらの要因を解消することが基本となります。ストレスが原因となっている場合は自律神経失調症の恐れがあるので、まず精神的に不安定な状態を解消し、ストレスの原因となっているものをはっきりさせて、これを取り除きます。
消化器科の医療機関での薬物治療や、精神科の医療機関での心理療法などによる治療を受けることが最も望ましいでしょう。また、医療機関に頼らず自らストレスを解消する方法として自律訓練法があります。生活の乱れが原因となっている場合 暴飲暴食、喫煙、アルコールの多量摂取を避け、食生活の改善および生活習慣の改善を行い、規則正しい生活を送るようにします
治療では精神療法と生活指導が重要であり、これと平行して薬物療法を行いますが、漢方薬では全ての場合が適応となります。便秘下痢交代型(不安定型)では桂枝加芍薬湯を基本とし、、便秘傾向では桂枝加芍薬大黄湯を、下痢傾向では桂枝加芍薬湯を、腹痛と腹鳴の強いものには大建中湯を、虚弱な小児では小建中湯を用いることが多いです。下痢型では人参湯が最も頻用され、体力が中程度の者には半夏瀉心湯や平胃散を、人参湯が無効で虚証であれば真武湯を用います。
また便秘型では桂枝加芍薬大黄湯が頻用されます。その他、高分子重合体、消化管運動調節薬などがまず投与されます。下痢に対して乳酸菌や酪酸菌製剤(いわゆる整腸薬)、セロトニン受容体拮抗薬、止痢(しり)薬、便秘に対して緩下薬、腹痛に鎮痙薬が投与されることもあります。これらの薬剤で改善がみられない場合は、抗不安薬、抗うつ薬が考慮されます。
当院では大腸検査を行っています。消化器の癌では胃癌が最も多いのですが、その発生率が鈍っており、大腸癌の発生は増加傾向にあります。結腸と直腸に分けてみると従来日本人は直腸癌が多かったのですが、1970年代後半から結腸癌の発生ののびが著しく、発生率は年々開いています。大腸癌の増加は、食生活の欧米化、動物性脂質の摂取量の増加と食物繊維の摂取量の減少によるとされています。
大腸癌は遺伝性が言われており、明らかな遺伝疾患である家族性ポリポーシスではAPC遺伝子が原因遺伝子とされています。その他hMLH1,hMSH2,hMSH6などの遺伝子が関与すると言われています。家族、特に第1度近親者に大腸ポリープ、大腸癌があった場合は積極的に検査を受ける必要があります。
大腸癌の検査の最も簡単な方法は便の潜血を調べる方法で、便潜血陽性者は2.94%で大腸癌は0.07%、大腸ポリープ0.25%であり、便潜血反応陽性者の大腸癌的中率は2.35%という報告があります。便を調べるのは二日法といって、別々の日に2回調べるのが基本です。さらに大腸ファイバーにより検査を行います。現在ヘリカルCTによって、腸管を3次元的に表示することが可能となりましたが、隆起型の病変しかわからず1cm以上の病変で90%の検出率できます(10%は出来ないということ)が、5~9mmの病変は約80%、5mm以下はさらに低率となり、大腸ファイバーに及びもつきません。また表在型、陥凹型は大腸ファイバーでないと検出が困難です。
大腸ファイバーによる観察では93%が隆起型で、そのうち早期癌は6.7%、表在型(横に広がっていくタイプ)は4.7%で33.5%が早期癌であったが、陥凹型は2.3%でそうのうち早期癌は47.8%であったという報告があります。
大腸癌の内視鏡治療は1969年Shinyaらが、S状結腸ポリープを高周波電流を利用して摘除して以来、隆起性の早期癌に対してポリペクトミーとして行われてきました。輪っかを病変にかけこの輪っかを絞った後に高周波電流を通してメスのように病変を切除するものです。大きなポリープでは1回に切除せず、分割して切除することもあります。
しかし当院で行っているような大腸ファイバーの進歩により隆起性病変以外に色調の変化でしか判断できないような平坦型、わずかな陥凹病変(掘れこんでいる病変)の早期癌が多数見つかるようになり、こうした病変に対して内視鏡的粘膜切除術(EMR;Endoscopic mucosal resection)が行われます。これは大腸ファイバーを使って病変の下に生理食塩水かブドウ糖液を針で注入して病変を浮き上がらせた後ポリープを切除するように病変を切除するものです。
しかし進行癌や、早期癌でも粘膜面以上に深く浸潤している癌や大きさが2cmを超えるものではリンパ節転移がある可能性があり、リンパ節をも切除しなければなりませんので開腹による外科手術が行われるのが一般的です。
もちろん進行癌では外科手術が最優先におこわなわれます。また進行が早く、転移も多い未分化癌や低分化腺癌(これらは大腸ファイバーで組織を採り顕微鏡検査で判定します)では外科手術が選択されます。
胃癌の場合もそうですが、早期の癌が見つけられることが多くなったものですから病変が小さい場合、手で触ってもどこに癌があるかわからないことがあります。つまりどこを切っていいかわからないわけです。このため小さな病変の場合は、内科医が前もって内視鏡で病変部分へ小さな針を使って墨汁を打ち込みます。これを点墨法(てんぼくほう)といい、これによって腸管が外から見ても黒く染まって病変がわかるというわけです。また転移しているリンパ節も黒く染まりリンパ節転移もわかります。
私もこれまでに何回かしていますが、点墨の手技自体は極めて簡単なものです。小生は内科の専門医で外科の最新の手術方法の詳細までは知らないのですが、大腸癌の外科的手術としては腹腔鏡手術によるものと開腹手術によるものがあります。
1)腹腔鏡下手術
我が国では1993年から腹腔鏡下結腸切除術が行われるようになってきています。これは全身麻酔下にまず腹部に1カ所小さな穴を開け、ここに管を入れて炭酸ガスを入れておなかをふくらませ、内臓と腹壁の間に空間を作ります。その上でさらに3カ所ほどの穴を開け、これから内視鏡を挿入、別の穴から長い取ってのついた器具を挿入して、内視鏡の画面を見ながら手術をするものです。つまり術者はテレビ画面を見ながら手術をするのです。したがって画面に映っていない部分は見えませんし、病変を直接手で触ることも出来ません。この手術のメリットは開腹手術に較べて出血量が少なく、術後の疼痛軽減、経口摂取開始日数の短縮、術後在院日数の短縮などが上げられます。一方手術時間は開腹手術に較べて長くなります。術者の技量に大きく作用されることがあります。またリンパ節郭清の安全性、精度についてはまだ確立していません。早期癌に対する腹腔鏡下手術は確立した術式ですが、相当な進行癌には用いられません。
2)開腹手術
従来、直腸癌の手術はMiles(マイルス)らが行った(1908年)、肛門を含めて直腸を切断し人工肛門を造設する腹会陰直腸切除術が一般的でした。1979年になってようやくRavitchがカートリッジ式のEEAによる消化管吻合を行ってから急速に器械吻合が行われるようになってきました。現在では骨盤内の下部直腸でも腸管吻合が可能になり人工肛門を作らず、肛門機能を温存できる例が増えています。直腸癌の治療成績が結腸癌より不良であるのは局所再発と側方リンパ節転移が主な原因です。以前は直腸癌では手術後、骨盤内に放射線を当てたり抗ガン剤を使用したりしていました。また側方リンパ節郭清を行って骨盤内自律神経が障害され、性機能障害、排尿障害が高率に発生しました。現在では骨盤内の自律神経を温存しつつ側方リンパ節を郭清する方法が主流となっています。
進行大腸癌の特徴として、転移があって根治が望めない場合でも手術をすることがあります。ほとんどの癌では転移があるようなときは手術不能とされるのに対してこれは他のがんと大きく違う点です。それは大腸癌の場合、進行すると腸管が閉塞し腸閉塞を起こすことがあるからです。
いずれにせよ、最初に述べたようにある程度の年齢の方、家族で大腸の病気になった方がおられる場合などは必ず毎年検査を受けることが肝要です。